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(アルバトロスルキ家族パロ)



ふかふかのベッド。じんわりとあったかくて、お日さまの匂いがする。お兄ちゃんが干してくれたお布団はいつもいい匂いがする。お兄ちゃんみたいな匂いで、私はお日さまの匂いが大好きだ。
お兄ちゃんはわたしのお布団は特に念入りに手入れをしてくれる。ルキは女の子だからね、って言って、綺麗にしてくれる。もう一人のお兄ちゃんは内緒でたくさんのぬいぐるみを買ってくれたりする。でも部屋の掃除をするのはお兄ちゃんだから、すぐにばれている。お兄ちゃんはその度に、ボクには何も買ってくれないのに、と一言だけ文句を言って、よかったね、と笑ってくれる。


うとうと。あんまりにもお布団が気持ちいいから、まぶたが仲良くなってしまった。今日はたくさんはしゃいだから少し疲れてしまった。お兄ちゃんが二人揃って私と一緒にいてくれるなんて滅多にないから、嬉しくて。だからこれは、仕方ない。仕方ないのだ。




私には二人のお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんは掃除だったり洗濯だったり料理だったり。いろんなことをしてくれる。お兄ちゃんは大体家にいて、たまに私のことを迎えに来てくれる。だから一緒に手を繋いで帰るのだ。
もう一人のお兄ちゃんはアルバイトや大学の勉強で帰りが遅い。だけど帰りが遅くなる日は必ず、お兄ちゃんには内緒な、と言ってアイスやジュースを買ってきてくれる。私はそのことをお兄ちゃんに言ったことはない。もう一人のお兄ちゃんとの約束だからだ。


お兄ちゃんと、もう一人のお兄ちゃんと、私。広くも狭くもないこの家に三人。ずっと一緒に暮らしている。お兄ちゃんたちはきっと私のことが大好きだし、私だってお兄ちゃんのことが大好きだ。誰にも負けない。
いつだったか近所に住んでるお兄さんに言われたことがある。ルキちゃんは本当にあの二人が好きだね、って。何を当たり前のことを聞いているんだと思ったから、何を当たり前のことを聞いてるの、って言ってあげた。お兄さんは苦笑いしていた。お兄さんのことも好きだよ、って言っておいた。


「ルキー?」


お兄ちゃんの声がする。ふかふかのベッドから出るのがもったいなくて。聞こえないふりをする。


「ルキ?寝ちゃった?」

「あんたがちんたらしてるからですよ」

「ひどい!無駄に凝ったのリクエストしてきたのはお前じゃないか!」


お兄ちゃんと、もう一人のお兄ちゃんの声。私は二人が話してる声が何よりも好きだ。ぽんぽん、ポップコーンみたいに弾ける声。結構ひどいことを言い合っているのに絶対に喧嘩にならない。もう一人のお兄ちゃんにお兄ちゃんが口で勝てるはずがないから、そもそもお兄ちゃんは勝負を挑まないのだけれど。


そっと髪に触れる手。温かいから、これはお兄ちゃんの方の手だ。その手を叩き落として、今度は冷たい手が私の頭に触れる。こっちはもう一人のお兄ちゃんの手。どちらのお兄ちゃんの手も好きだけれど、夏はもう一人のお兄ちゃんの手が、冬はお兄ちゃんの手の方が好きだ。
近所のお兄さんにそれを言ったら、オレは!?と泣きそうな顔をして詰め寄ってきた。面倒だったから、いつでも好きだよ、と答えると、お兄さんはとても嬉しそうに笑っていた。ちょっと罪悪感。


「…もうちょっと寝かせてあげようか」

「そうですね。今日ははしゃいでましたし」

「じゃあ、ルキのこと見ててよ。ボク、洗濯物片付けてくるから」

「はいはい」


ぎい、ぱたん。ドアが開いて、閉まる。お兄ちゃんの足音が遠ざかっていって、ぎしり、とベッドが軋んだ。もう一人のお兄ちゃんのにおいが近くなる。
髪を梳く手は優しい。もう一人のお兄ちゃんは、本当に私とお兄ちゃんのことを大事にしてくれる。アルバイトをたくさんして、私とお兄ちゃんが不自由しないようにしてくれているし、私たちに何かあったら飛んでくるのだって知ってる。カホゴなんだよ、ってお兄ちゃんは言ってたけど。嬉しそうにしていた。


「…ぅむ…」

「起きたか?」

「…おきてたもん」

「嘘つけ。目、開いてないぞ」


ひんやりした手に擦り寄って、夏の暑さから遠ざかる。もう一人のお兄ちゃんは私にされるがままだ。久しぶりに一日中一緒にいてくれたもう一人のお兄ちゃんは、今日は私のワガママなら何だって聞いてくれる。


「ろすにい」

「ん?」

「あのね」


あのね、わたしね。伝えたいことがあるのに、うまく言葉にならない。もう一人のお兄ちゃんはくすりと笑って、またゆっくり頭を撫でてくれた。


「すき」


なんとか口にした言葉は、たったの二文字。頭を撫でてくれていた手がぴたりと止まる。今にもくっつきそうなまぶたを一生懸命はがしてもう一人のお兄ちゃんを見ると、それはそれは優しい、嬉しそうな顔をしていた。知ってるよ、もう一人のお兄ちゃんは言う。
やっぱり知ってたかあ、と私は嬉しくなった。頭を撫でている方とは反対の手を握って、私は目を閉じる。もっと撫でてほしくて手に頭を押し付ける。もう一人のお兄ちゃんは仕方ないな、と言いたげにまた頭を撫でてくれた。


「シオンー?」

「……」

「シオン、いないのか?」

「……」

「ロス兄?」


もう一人のお兄ちゃんを呼ぶお兄ちゃんの声。もう一人のお兄ちゃんは応えない。お兄ちゃんの声が近くなって、ドアが開く。お兄ちゃんの足音。ぎしり、軋んだベッド。無視するなよ、お兄ちゃんの声が、すぐ傍でした。


「ルキが起きるだろうが」

「うっ…、ごめん…」

「…おきてるってばぁ」


もう一人のお兄ちゃんよりも少しだけ小さくてやわらかい手が、私の頬に触れた。ふにふにと遊ぶようにつついてくるその手が邪魔で眉を寄せると、はは、とお兄ちゃんは笑った。そんなことをしてくるお兄ちゃんの手は捕まえてやろう。お兄ちゃんの手を握る。


「あるばにい、手、つめたい」

「あー、ごめん。さっき洗い物してきたんだよ」


お兄ちゃんの手からは確かに少しだけ洗剤のにおいがした。我が家の家事のほとんど全部をやってくれているのに、お兄ちゃんの手は手荒れという言葉を知らないようにきれいでやわらかい。だけどそのやわらかさも私のものとは違うのだ。


「ついでに流されてくればよかったのに」

「ルキを独り占めしようったってそうはいかないからな」

「…生意気」

「わっ!ちょ、シオン!やめろって!」


じたばた。暴れるお兄ちゃんとそれを簡単に捕まえて頭をぐしゃぐしゃにするもう一人のお兄ちゃん。お兄ちゃんが毎朝頑張ってセットしているらしい髪がぼさぼさだ。涙目になっているお兄ちゃんと、心底楽しそうに笑っているもう一人のお兄ちゃんの姿が、ぼんやりとした視界に映った。
お兄ちゃんたちばっかりずるい。私は頑張って手を伸ばした。届かない。悔しくて、ちょっとだけ寂しくて。まだ眠いよ、と悲鳴を上げる身体を無理矢理起こして、私はお兄ちゃんたちの頭に手を伸ばす。届いた。


「ルキ?」

「起きるか?」


そうしたら、二人。ぴたりと動きを止めて、私の方を見てくれる。ふふ、と笑ってしまった。


「アルバさん、シオンさん、おはよう」

「おはよう、ルキ」

「まだ寝ててもいいんだぞ。疲れたんだろ」


今日は久しぶりに三人揃って遊園地に行った。アルバさんもシオンさんも今日は特別だからね、って言って、勉強もアルバイトも放って私と一緒にいてくれた。
遊園地ではたくさん乗り物に乗って、クレープやアイスや、おいしいものをいっぱい食べて。お兄ちゃんたちと手を繋いで。仲がいいのね、なんて微笑まれて。いいなあ、という女の子たちに、いいでしょ、と返してやった。いいでしょ、私のお兄ちゃんなんだから。


「もう起きる!」

「そっか。じゃあリビングに行こうか」

「アルバさん、アルバさん。今日あれの日ですよ。アバラマン」

「えー、つまんないじゃんあれ。何が面白いんだよ」

「だってアルバさんそっくりじゃないですか!」

「あれとそっくりとか!物凄く不名誉!」


アルバさんは私の手を取った。シオンさんも私の手を取る。あっという間にふさがる両手。あったかくて冷たい。私はまた、ふふ、と笑った。ぎゅう、両手に力を入れる。


「じゃあアバラマン見たらご飯にしよっか」

「今日のご飯はー?」

「ルキが好きなやつばっかり作ったから、楽しみにしててね」

「わーい!ふぁんぴーは?」

「買ってきてあるぞ」

「ほんと!?ありがとうシオンさん!」


シオンさんが私の手を少しだけ引いた。シオンさんを見上げると、アルバさんに悪戯するときみたいな顔で笑っていた。ちょいちょい、シオンさんが手招きをする。彼の口元に耳を寄せると、彼はそっと囁いた。


「あとでプレゼントやるよ」


ぱっとシオンさんを見ると、シオンさんは人差し指を口の前に当てていた。私は何度も頷いて、ご機嫌に両手を振った。アルバさんが釣られて転びそうになる。それすらも面白くって、私は笑い声を上げる。


「なに内緒話してるんだよー」

「内緒だから内緒話って言うんでしょう。馬鹿ですか」

「いつもボクだけ除け者にして…」


まだ丸みが残る頬をいっぱいに膨らませてアルバさんは精一杯の怒った顔を作る。シオンさんはアルバさんの両頬を勢いよく掴んで、口の中に溜まった空気を吐き出させる。ぶう、間抜けな音が鳴って、痛い痛い、アルバさんから悲鳴が上がった。笑い声、三人分。




並んでテレビを見て、三人揃っていつもより少しだけ豪華なご飯を食べる。ソファでごろごろとして、よく冷えた大きなケーキを取り出して。ロウソクを刺した。灯る火、ハッピーバースデーの歌。吹き消して、電気を点けて、二人の顔を見て。優しい二人のお兄ちゃんの顔に、ちょっとだけ泣いた。


いつだって隣にいて、手を繋いで、一緒に寝て、起きて。たまに遊園地に行って。頭を撫でてくれて、抱き締めてくれて、私に、いっぱいの愛を注いでくれる人たち。私の大好きなお兄ちゃんたち。


「お誕生日おめでとう、ルキ!」

「おめでとう」


たぶん私は、何年経っても、何千年経っても、どこにいても、世界が違っても、私たちが家族じゃなくても。二人のことが大好きで、ずっと二人と一緒にいたいと願うのだろうなあと。そんなことを思った。


「ロスにい、アルバにい。あのね、」


だから、今日くらいは素直に。こんなことを思ったんだよって、伝えてみようかな、なんて。
きっとお兄ちゃんたちは、とっても嬉しそうに笑って、私の名前を呼んでくれるのだろう。






きらきらひかる
(HAPPY BIRTHDAY to RUKI!)






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