senyu | ナノ






誰にも言っていないけれど、オレには眠っていた間の記憶がある。シーたんが苦しんで、パパさんが笑っていた、あの時の記憶がある。
シーたんと同じだけの時間を重ねてきたから、精神も肉体年齢相応に成熟している、つもりだ。だから、今まで何があったのか、オレはオレなりに正しく理解している。


オレの身体は血塗れだ。血塗れで、憎しみにも塗れている。やったのはパパさんの意識だけど、手を下したのは間違いなくオレの身体だ。オレはオレの身体の奥底で、じっと震えながらそれを見てきた。
身体に残った魔力ツクール君は今も順調に魔力を回復していて、それを感じ取る度に、世界の負の感情を正確に読み取ってしまうツクール君の存在を疎ましく思うのだけれど。だけど他でもない、オレの中では誰に対するものでもない小さな小さな負の炎が燻っているのだから。それも仕方のないことかと思っている。


シーたんはオレに千年の記憶が残っていないと思っている。そのことに安堵している。お前は何も知らなくていい、と思っていることが表情に如実に表れている。だからオレはそれに甘えている。
オレはシーたんが思っているほどもう子供では無いし、彼が思っているよりも遥かに打算的だ。オレは無邪気を装っている。言わば、オレを救うために必死になってくれた親友に嘘を吐いているのだ。それも、とんでもなく酷い嘘。


シーたんはオレが何も知らないと思っている。オレは全てを知っている。
ひどい矛盾だ。嘘だ。裏切りだ。
千年もの間、オレを追い求めてくれた親友に、オレは何て事をしているのだろうか。そんなことを思わないでもない。




だけどさ、言えるわけがないだろう。

千年の眠りを越えて、あの狭い世界を飛び出して。多くの人と出会い、たくさんのものを見て、様々な感情を知り、数えきれないほどの大切なものが出来た、あの小さかった親友の。世界を奪うことなど。出来るはずがないんだ。


これは小さな自己満足。
オレたちが何も知らずに生きてきたあの頃。小さな世界を守るのに必死だった親友を守ろうとした幼い日の自分への。約束だか誓いだか、きっとそんなもの。




「シーたん、シーたん!次はどこに行こうか!」

「どこでもいいだろ。世界は広いんだから」




自分の中で膝を抱えて震えていたあの頃。見ることのできなかった親友の笑みを目にして、オレは無邪気に笑う。あの頃から変わったようで変わっていないようで、やっぱり少しだけ変わってしまったオレたちの行く先は、どこなのだろう。


ちり、と胸を焦がす炎には、気付かないふりをして。
矛盾と嘘と裏切りを孕んだ魂を押し隠し、オレは親友の隣で笑っている。




130410


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