Struggle





「……勘弁しろよ…………」



静かなリビングに、俺の切ない呟きがこだまする。
目の前には、愛おしい彼女の姿。
俺は、その彼女を見て大きくため息をついた。



ショートパンツから伸びた素足に、肩から覗く下着のストラップ。
小さく開かれた唇に、更には服の裾からは素肌が呼吸に合わせて見え隠れしている。


こんな据え膳、見たことがない。



10分ほど前。
俺が風呂に入ろうと思った時に部屋にやってきた名前は、ゲームでもしながら待っているとソファに寝転んだ。
適当にお茶を出すと、「さんきゅー。」と、緩い返事が返ってくる。

そして風呂から帰ってきた時には、彼女は穏やかに寝息を立てていた。



彼氏と彼女の関係だ。
さらに、俺よりひとつ年上の名前には遠慮される事も無い。
そもそも、それなりには名前の身体に触れたこともある。

それでも、疲れた俺にその彼女の姿は目に毒だった。



静かに近寄って、目元にかかった前髪をゆっくりと指で退ける。
それから頬を撫でると、彼女は小さく身動ぎした。

「起きねえな……」


そのまま服の裾から手を入れようと視線を落とす。

そこで、俺はハッとした。



『寝込み襲っちゃったりしないの?
いっちゃえよ恵〜。』



過ぎったのは、親の顔より見たセクハラ白髪男の顔。

駄目だ。このまま手を出せば五条先生と同レベルになってしまう。




危なかった、一緒に居すぎて毒されたか?
コーヒーでも入れよう。頭を覚ましたい。

慌てて首を振って背を向けた、その時だった。



「うおっ、」


後ろから抱き締められて、身体が仰け反る。
首元に擦り寄るのは、愛しい香り。


「結局手出さんのかーい。」

「名前、お前いつの間に起きてたのか。」

「熱烈な視線に目がさめたわ。
そんなに見つめて、恵は私が好きだね〜。」


可笑しそうに笑う声に、ため息をつく。
振り返って、彼女を抱き返した。


「そりゃ……好きに決まってんだろ。」

「……ほんっと……恵は可愛いなぁ……!!」


わしわしと、突然髪を雑に撫でられる。
その手を掴んで止めさせると、へへ。と彼女ははにかんだ。


「私も好きだよ、恵っ!」

「分かってますよ、苗字先輩。」



顔に集まった熱を隠したくて、名前を引き剥がす。
今度こそコーヒーを淹れに行こうと再び振り返ると、さっきより強い力で引き戻された。


その瞬間、重なる唇。


「んっ……」

俺の情けない声に小さく笑った名前は、ゆっくりと離れる。


「据え膳なんですけど。」

「……言ったからな。」


再びコーヒーは後回しにして、俺は彼女をソファに押し戻した。





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