陸 知己朋友
「よし、じゃあ伏黒はこっちの資料持っていけ。
苗字は、このファイルを。
じゃ、先に教室戻ってるから。」
がらがら、と後ろ手に引き戸を閉めて出ていった先生の後ろ姿に、伏黒くんが盛大にため息をついた。
「……ったく、あの人いつも人遣い荒えな。」
4枚1組で4綴りくらいの紙をとんとんと揃えて、私が持つように頼まれたファイルごと彼が手にする。
「あっ、それ、私が持つよ?」
「別に、これだけなら俺一人で十分だろ。」
「いや、まあ……そうなんだけどさ……」
生徒が私含め4人しかいないから、そんなにあるはずも無いんだけど。
それでも、手ぶらで案内だけしてもらうの申し訳ないじゃん……
がた、と音がして彼を見遣ると、伏黒くんは呑気にそこら辺の机に腰掛けていた。
「……戻らないの?」
ああ。と頷いて、それから彼の声が低くなる。
「お前に聞きたいことがある。」
「何……?」
なんだかなんでも見透かされてしまいそうなその瞳に、思わず目を逸らした。
確かに隠し事が上手い方じゃない……というか下手だけど、そこ数十分でバレたら流石にたまったもんじゃない。
警戒しつつ俯いたまま答えると、彼は立ち上がって私の左肩を掴んだ。
「さっきの、何だ。」
「さっきのって。」
「あの頭痛。しゃがみこまないとやってられないくらい酷いんだろ。
それに "よくある" って、そんなに酷いのが頻繁に起こるなんてのは異常だ。」
まさに隠したいこと1つ目をド直球で聞かれて、思わず顔を上げた。
触れないようにしてたのに。
触れてほしくない雰囲気出してたのに。
苛立ちと焦りと申し訳なさと……色々が渦巻いた複雑で変な感情が腹の奥にぼたぼたと落ちて溜まったような気がする。
あからさまに黙り込んでしまって、私は小さく首を振ることしか出来なかった。
「……大丈夫だから。本当に。」
「でも、」
「ほいっ、もう行こ!一応今も授業中だし!」
聞き返そうとした彼に間髪入れず言葉をかぶせる。
置いてっちゃうからなー!なんて笑って、私は伏黒くんを残したまま資料室を後にした。
伏黒くんの顔を見るのが怖くて、私は振り返ることができなかった。
やってしまった。
その一言で頭がいっぱいになりそうで、咄嗟に大きく深呼吸をする。
聞かれたくない事なんだろうというのは分かっていた。
それでも、聞かずにはいられなかった。
そして、たぶん……怒らせた。
どうやら隠し事が苦手な苗字が、それでも必死に誤魔化そうとしていた事だ。無理もないだろう。
お前にはデリカシーがない、と言われても文句は言えない。
でも、あの無理に引き攣らせた笑顔が、なにか助けを求めているような気がして。
思わず頭を抱える。
目を閉じて瞼の裏でチラつくのは、やっぱりあの不自然な笑顔。
「……あいつの笑顔、苦手だ。」
重い腰を上げて、俺は苗字の後を追いつつ教室に足を向けた。