ドロドロに溶け合うまで #1
待て。
一体これはどういう状況だ。
「恵、」
ベッドに沈みこんだ俺の身体と、俺を見下ろす名前。
余裕なさげなその瞳には、熱が籠っている。
「ちょっ、ま、待て。」
「もう十分待ったつもりですけど。」
事の発端は1時間と30分前。
名前が俺の家にやってきた19時半頃まで遡る。
「恵って、料理出来るんだ。
あんまりそうやってキッチンに立ってるイメージ無いんだけど。」
「寮とは言え一人暮らしだからな。
人並みにはできる。少なくともあんたよりは。」
「お、じゃあ久々にカップラーメン以外のものが食べれる?」
「何が食いたい?」
「うーん、カレー!」
「そんなので良いのか……」
名前の軽口はいつも通りで、彼女はいつも学校の飯で済ませていたから初めてだった俺の手料理も、美味しい、うまい、と喜んで食べてくれた。
問題は、その後だ。
後に入りたいからと風呂を譲られてそれに甘えた俺は、ちょうど放送が始まったドラマを何となく見つつ名前が風呂から上がるのを待っていた。
どうやらドラマは診療所の話らしい。
今までの話を見ていないから内容はさっぱり分からないが、テンポよく進む会話が気持ち良く感じる。
「お風呂ありがとー。
あ、それ、『レインボー問診票』」でしょ。
恵見てるの?面白いよねー。」
「このドラマか?いや、たまたまテレビをつけたらやってた。
面白いな。」
「コミカルな感じに見えて意外とテーマ重いし、たぶん恵好きだよ。」
「そうか。それなら1話から見たかったな。」
「あはは、そういうタイプのドラマって最初から見ないと分かんないもんね。
茨城黄門とかアンパンメンと違って。」
「茨城黄門とアンパンメンは同じタイプなのか……?」
「え、同じでしょ。いわゆる"正義が勝つ"系。」
ぼすっと音を立てて、ベッドに座っていた俺の隣に名前が寝転ぶ。
腰に抱きついてきた名前の髪を撫でて、テレビを消した。
「もう寝るか?疲れてるだろ。」
そして、次の瞬間。
俺はベッドに押し倒されていた。
「こういうのは、普通俺からじゃないのか……!」
「だって恵、いつまで経っても手だしてくれないんだもん。
私を大事にしてくれてるのはスゴく分かるんだけどさ。」
名前のキスが、額に、頬に、耳元に触れる。
そのまま下がってきた熱は、俺の唇を通り越して首筋に吸い付いた。
「んっ……」
「恵、かわいい。」
「待っ……ぁ、」
一瞬開かれた唇を、逃すまいと名前の唇が捕らえる。
そのまま中で舌が絡んで、混ざりあった唾液を思わず飲み込んだ。
水音とお互いの息遣いに、身体の熱が高まっていくのを感じる。
そのまま服の裾から入り込んできた指先に、思わず喉が反った。
「っ、名前……なんで、俺が、」
「だって……恵があんまり可愛いから。」
脱がすね。と俺の服をたくし上げようとした名前の手を掴む。
「そういうのは、俺がする方だろ……!」
荒くなった息を落ち着けて、名前を見上げる。
それを見た名前は、首を傾げて艶やかに笑った。
「甘やかされるの、嫌?」
一瞬言葉に詰まった俺に、名前がまたキスをする。
「嫌じゃないでしょ、恵。」
愛してるよ。
耳元で囁かれた言葉に、俺は頷くことしか出来なかった。