Episode 12





コルネオの元に1人潜入していったティファを助けるため、手もみ屋のマダム・マムに協力を依頼した俺とエアリスは、条件として課されたコルネオ杯での優勝を目前にしていた。

残すは決勝のみ。
今までの相手は特別強くも無かったが、最後まで油断はできない。



「クラウド。ついに決勝、だね。」

「ああ。」

頑張ろ!と、エアリスがうんうんと頷く。


「良いところ、見せないとね?」

「誰にだ。」

「うーん……みんなに?」


エアリスが何か含みを持たせて俺に首を傾げた。
俺が観客に媚びるはずが無いのなんて知っているはずだ。
相変わらず彼女は読めない。



ガラガラと音を立ててゲートが開く。
実況のやつらには勝手にカップルにされているし、不満もつのるがここは我慢だ。

何より目の前の敵に集中する。
どんなやつが来ようと、俺の敵じゃない。



……だが、その敵は俺たちの予想とは少し……いや、かなり違うものだった。


「ロボット!?」

驚いたように、エアリスが声をあげた。


「神羅の機械兵器か」


何でも許されるのか、とそいつらを睨みつける。
さすがはこの無秩序のウォールマーケットを仕切るコルネオといったところか、盛り上がれば何でも許されるんだろう。


「そんなのアリ?」

エアリスが半ばため息を着くようにひとりごちる。
仕方なく武器を構えて、俺たちふたりはその機械兵器と対峙した。






『なんてこった なんてこった なんてこった!!』

『コルネオ杯の頂点にたったのはなんと、クラウド&エアリスチーム!』


結論から言うと、俺たちは勝利した。
楽勝とは言わないが、あまり苦労せず。

神羅のガラクタ共は一撃こそ重さがあるものの、その巨体と作りからか、攻撃に入る動きは大きく独特。
隙も見つけやすく、反撃する事がそう難しくなかった。

バラバラになって地面に転がったそいつらを一瞥すると、エアリスと目を合わせて小さく頷く。
これで、ティファを助けられる。
一先ず最初のステップはクリアだ。



観客とアリーナに背を向けて、戻ろうと出口に足を進めたところだった。


……ふと、視界の端に見慣れたなにかがうつった気がした。
客席の方に、徐に目を向ける。


そこには、


「クラウド!!おーーい!!」


客席から身を乗り出して俺に手を振る、心配そうな顔のナマエの姿があった。









気が気じゃなかった。
あまり背も体格も大きいほうじゃないクラウドと、ワンピースの裾をひらひらさせた儚げな女性が、神羅製のどデカい兵器ふたつと戦っている。


ただ、試合の様子は私が予想していたのとは少し違った。

カッターもスイーパーも攻撃してはいるものの、クラウドたちが素早く避けて反撃する方が早い。
闘技場用にある程度改造してはあるらしいが、それより素早い彼らに、やはりその大きなボディ故の重い攻撃モーションが仇となっているようだ。


なるほど、対人武器であればサイズよりも素早さを優先させた方が効果的なのは間違いなさそう。



そこまで考えてはっとする。
いけない、データを見ている気になっていた。
でも、先輩方の言っていたとおり、勉強になる。
まだまだ改善の余地があるんだ、神羅の兵器も。


……というか、クラウドが強い。

攻撃の隙を的確に見極めて避けては、確実にその大きな剣で攻撃をボディに叩き込む。
女性の方も一歩後ろから援護するように攻撃と回復を使い分けて、そのチームプレイは見事と言う他なかった。



彼らの方が不利に違いないと思っていたのに、試合が終わる頃には、なんとなく機械たちの方に同情していた自分に気付く。
優勝回数5回が信じられないほど翻弄される機械達に対して、彼らの動きは洗練されて無駄がなく、美しかった。






ふと、クラウドが心配で傷ついて欲しくない自分と、あの兵器たちにどうすれば敵を殺させることができるか考えてる自分がいる事に気が付く。



……ぞくり。


背中をなにかが伝って、さーっと血の気が引いていった。



そうか。

兵器を作っているのか、私たちは。

そしてそれは、私たちの人を守る代わりに敵方の人を殺して帰ってくるのか。




その先は考えてはいけないと本能で感じて、私はとっさに首を振る。

心の中にかかった黒い色のもやは見えないふりをして、私はそれを振り払うように席から立ち上がった。


「クラウド!!おーーい!!」

ぶんぶん手を振る私。
それにクラウドが気付いたのがわかる。
手を振り返してくれる様子はない。
まあ、だろうな。クラウドらしいかもしれない。
ここからだと、表情は遠くてはっきりは見えないけど、きっと驚いた顔してるんだろうな。


とんとん、と私の肩を先輩が叩く。

「ナマエ、行っといで。」


優しい先輩の笑顔に、はい、と頷いて客席を飛び出した。
女性同士、きっと何かがバレてるのかもしれない。
あとで弄られるんだろうな、なんて笑って、私は階段を駆け下りた。









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