10/7 ススキ畑の夜 編





肌寒い日も増えた10月のあたま。
夏の陽気はすっかり去って、見かける虫や鳥たちも秋の顔ぶれだ。


「ススキ畑?」

「ああ、ナマエはきっと好きだと思ったんだ。
この間仕事の都合で通ったら綺麗だったから、今夜行かないか。」


珍しいクラウドからのお誘いに、私は目を見開いた。


「なんか……意外。
ちゃんとクラウドも景色を綺麗だと思うんだね。」

「馬鹿にしてるのか。」

興味が無いなら行かない。
と拗ねたように背を向けたクラウドの腕を、笑いながら掴む。


「ごめんごめん、嘘だって。
行こ、見に行きたい。」

うん、と頷いたクラウドに安心する。
でも良かった。誘われるってことは、私はちゃんと友達カウントされてたみたいだ。

クラウドの都合で夜から行こうということになり、寒くない程度に適当な服を着込んで集合場所に向かう。
メイクはしてこなかった。
夜だし、クラウドなら別にいっかなって。
恋人とか好きな人と行くなら、こういうのも気を使った方がいいんだろうけど。




徒歩で行ける距離にあるらしく、2人で他愛ない話をしながら歩く。

「ティファとか誘わなくて良かったの?」

クラウドにふと尋ねてみた。


「あんたこそ、誘えば良かったんじゃないか」

「確かに。近いみたいだし、今度一緒に行こうかな。」





しばらく歩いただろうか。
ふと、クラウドが立ち止まって目線を上げる。


「ここだ。」

その視線を追うように顔を上げると、視界に飛び込んできたのは、いっぱいのススキの海。


「すごい……綺麗!」

風に煽られたススキたちが、さらさらと音を立てながら遠く向こうから波打ってくる。

その幻想的な光景に、思わず拍手。
めっちゃ綺麗、白い海みたいだ。
足元で鳴く鈴虫の声もその景色を引き立てている。


「バイクを走らせてる時に、ちょうど目に入ったんだ。
こんなに広いススキ畑、あまり見ないだろ。」

「うん、こんなの初めて。
近くにこんな場所あったんだね、全然知らなかった!」

また拍手する私に、クラウドがふっと笑う。


「連れて来た甲斐があったな。」

「ありがとう、知れてよかった!」


嬉しくて、クラウドを見上げる。
すると、彼は突然空を見上げて呟いた。
風に吹かれて、その前髪がさらさらと流れる。


「ススキにも花言葉があるのを知ってるか」

花言葉?ススキに?


「待って、ススキってアレ花なの?」

「そこからか……」

「いや、だって葉っぱかと思うじゃん」

私の言葉にクラウドが大きくため息をついた。
失礼なヤツめ、知ってたら偉いんか。


「花が無かったらどうやって増えるんだ」

「うるさいなー。それで、何?花言葉。」

これ以上私のアホを弄られたくなくて、話を戻す。
すると、クラウドはまた真剣な顔に戻った。
月に照らされて、その瞳が揺れる。


「……"心が通じる"。」


心が通じる……心の中で反芻する。
綺麗な花言葉。
ススキさん、馬鹿にしてごめんな。


ふと思い立って、浮かんだある疑問をクラウドに問いかける。


「クラウドは、いる?心が通じてほしい相手。」


すると、クラウドは少し目を見開いて、それから私を真っ直ぐ見つめたと思うとその瞳を伏せた。
……なんなんだ?

少しの沈黙の後、クラウドが口を開く。

なんか、緊張する。何に緊張してるのか分からないけど。


誰か、いるのかな。

でも、彼の答えは私の考えを裏切るものだった。




「わからないな。」


えっ、わからないのかよ。
そこまで含みを持たせておいて。

呆れて、おかしくなって、小さく笑う。

「もう、何それ。
でも、なんかロマンチックだね。」


また、さらさらとススキの花が音を立てた。
まるで何かを囁いてるみたいに。訴えるみたいに。


「ナマエはそういうの好きそうだな。」

「よくご存知で。」

「まあな。」





しばらく眺めてから、私が帰りついたのは月もすっかり沈んだ後だった。
クラウドは明日も仕事のはずなのに家の前まで送ってくれて、アパートの窓から彼が家に戻る後ろ姿を見つめる。

また明日も、彼はバイクを走らせるんだろう。



そこまで考えて、ふと思い出した。

あそこらへん、クラウドが仕事中にバイクで通るような道なんてあったっけ?








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