7.館訪問

 雨桐にまだ館に来ないの? と聞かれて、確かに、と思い无限大人と相談してみることにした。館の皆にはお世話になっているし、美香に会ってほしい。館の皆も早く会いたいと言ってくれているそうだ。美香は最近少しずつ外に出始めたところだった。
「そうだな。館長も、そのうち連れてきてほしいと言っていたし」
 行こうか、と无限大人が決めて、次の休みに行くことを館長に伝えた。
 今は求職しているから、久しぶりに皆に会える。
 しっかりと準備をして、館に向かった。

「小香、久しぶり!」
 雨桐と挨拶を交わす。さっそく美香の顔を覗き込んだ。
「この子が美香か。ちっちゃいわね!」
「まだ二ヶ月ちょっとだからね」
「うわかわいい。私のことじっと見てる」
 雨桐は美香の眼差しにつられて、真面目な顔で見つめ返す。
 他の同僚たちも集まってきて、无限大人に挨拶をして、美香に声を掛けてくれた。
「すごくかわいいわね!」
「二人によく似てるね」
「これが赤ちゃんかぁ……!」
 妖精たちは物珍しげに美香を眺める。館ではあまり赤ん坊を見る機会はないだろう。
「ねえ、触ってみてもいい?」
「どうぞ」
 一人がわくわくした様子で聞いてきたので快諾すると、私も、と次々と手を上げた。順番に、頬をつついたり、手を握ったりしては、柔らかいとか、小さい、と驚いたように声を上げる。
「こんなちっちゃな手、すぐに壊れちゃいそうで怖いわね」
 雨桐も恐る恐る自分の手のひらの上に美香の手を乗せて、しみじみと言う。
「かわいいけど、弱々しくて、不安になるわ」
「大丈夫だよ。案外強いのよ」
 ねぇ、と美香に笑いかけると、雨桐は肩を揺らして笑った。
「なぁに、すっかり母親してるじゃない」
「そう?」
「まだ数ヶ月しか経ってないのに。こんなにちゃんとお母さんになるのね」
「そりゃ、お母さんだし……」
 照れくさくなりながら美香をあやす。けれど、次第にぐずり始めたので、そろそろ泣くかも、と思ったら泣き出した。
「どうしたの?」
「大丈夫?」
 その泣き声に、皆はおろおろと心配そうに美香の様子を伺う。
「大丈夫です。おむつを変えてあげないと。ちょっと奥で……」
 バッグを探すと、无限大人がもう持っていて、美香を抱き上げた。
「私が変えてこよう」
 无限大人がそう言うと、皆がどよめいた。
「无限大人が!?」
「おむつを……!?」
 驚いている人たちの中で、おむつが何かわからない妖精たちに、誰かがどんなものか教える。
 美香を連れて无限大人が別室に下がると、入れ違いに楊さんと館長がやってきた。
「小香。調子はどうかね」
「お久しぶりです、楊さん」
「うん、元気そうだな」
「はい。私も娘も元気ですよ」
 今は別室にいることを二人に伝える。
「なかなか甲斐甲斐しくやっているようだね、彼も」
「无限大人はあれで、世話好きなところがありますな」
 面白そうに无限大人の噂をする二人に、私も笑みが溢れてしまう。
「たくさんお世話してくれるので、とても助かっています」
「それはなにより。ずいぶん楽しそうですよ」
「我々妖精も、生まれたばかりの妖精を迎えることはとんと減ってしまいましたからなぁ。私が世話をしたのは、さていつだったか」
 そうして二人は昔話に花を咲かせる。
「无限大人も、父親やってるんだね」
 雨桐が感心したようにそう言うので、大きく頷く。
「世界で一番いい父親ですから」
「あは、のろけられたわ」
「ふふ。子育てって、大変なことは多いけど、それ以上に、幸せがたくさんもらえるよ」
「いいね。いままでは幸せいっぱいででれでれしてたけど、今の顔はまたちょっと違うな」
「えっ、でれでれって何よ」
「してたわよ、でれでれ」
「し、してないし……」
 改めて言われると恥ずかしいので否定するけれど、無視された。
 美香を抱いて无限大人が戻ってきて、館長と楊さんに気がついた。
「大人、何かお困りなことがあれば、いつでも仰ってください。我々にできることであれば、いくらで手伝いますから」
「ありがたい。では、小香が困っていたら、力になってやってほしい」
「もちろんです。彼女ももう、私たちの大切な仲間ですからな」
 同僚たちも、楊さんの言葉にうんうんと頷いてくれる。それがとても嬉しかった。
「では、そろそろ」
 无限大人は館長に目配せしながら、私に立ち上がるよう促す。美香のためにも、あまり長居はできない。
「小香、いつでも連絡してくれていいからね」
「美香ちゃんの写真送って!」
「また連れてきてね!」
「はい、また!」
 同僚たちにお暇を告げて、无限大人と館を後にする。美香は无限大人の腕の中で眠ってしまっていた。
「たくさんの人に囲まれて、疲れちゃったかな」
「うん。ありがたいことだな」
「本当に」
 こんなにたくさんの人が、美香を愛してくれている。それはとても嬉しいことだった。

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