4.新年

 春節の朝は、美香に起こされて、日が昇るころに目が覚めた。
「早安」
「早安好、无限大人」
 无限大人は別室にいたけれど、泣き声が聞こえたようで、授乳をしているところに顔を出した。
「新年から元気だね」
 目を閉じて小さな口で懸命に乳を飲む美香の顔を、優しい眼差しで見守る无限大人に、笑みが溢れる。
「新年快楽、小香、美香」
「新年快楽、无限大人。今年も、一緒に祝えて嬉しいです」
「私もだ。美香と迎える、初めての年越しだね」
「無事に越しましたね」
 美香はここまで大きく体調を崩すことなく、すくすくと育っている。生まれたばかりのときから少し身体が大きくなって、肌の赤みが薄れて、髪も濃くなり、手足がよく動くようになってきた。
「一日一日と、目に見えて変わっていきますね」
「ああ。本当に、目を離したくない……」
 无限大人は美香の頬を指先でそっと撫でる。美香はお腹がいっぱいになったようで、口を離した。无限大人は腕を伸ばして、美香の抱っこを交代してくれた。服の胸元を直す私に、美香をあやしながら話しかける。
「まだ朝食まで時間がある。寝室で少し寝てくるといい」
「それじゃあ、少しだけ……何かあったら呼んでください」
「大丈夫だよ。心配しないで」
 寝るときも、美香に何か起きないかと考えてしまって、なかなか熟睡できることが少なかった。それでも、无限大人がいてくれる分、とても助かっているから、そこまで深刻ではない。
 寝室のベッドに入ると、无限大人の温もりがまだ残っていて、なんだかすっと緊張感がほぐれて、すぐに眠れた。
 すっかり太陽が昇ったころに目が覚めて、仕度を整えてリビングに行くと、もう小黒も起きて、无限大人と一緒に朝食の準備をしていた。
「小香、早安! 新年快楽!」
「小黒、早安。新年快楽!」
 私に気づいた小黒が元気に挨拶をしてくれた。无限大人は片腕で美香を抱っこしたまま、器用に右腕で食卓を整えている。
「いい匂いですね」
「腹が減っているだろう。たくさん食べて」
「はい!」
 无限大人が椅子を引いてくれるので、腰掛ける。小黒も椅子に座り、お箸を取った。
「いただきます」
 すっかり手を合わせることが定着した。美香も、大きくなったら一緒に手を合わせてくれるだろうか。
 ご飯を食べ終わっても、无限大人と小黒はリビングでゆっくりしていた。
「あれ、二人とも、出かけないんですか?」
 外では、春節のお祭りが始まっている。屋台もたくさん並んでいるだろう。
 美香をあやしていた小黒は、不思議そうな顔で振り返った。
「どこに? 小白はおじいちゃんところに帰ってるし……」
 无限大人も首を傾げるので、まだ小さくて外に出られない美香と一緒に家にいてくれることを察した。
「でも、ちょっとくらいお祭りに行ってきたらいいのに。美味しいものたくさんありますよ」
 そう言ってみたけれど、二人は笑うだけだった。
「だって、美香と一緒に行きたいんだ。だから、来年行くよ」
「そう? 无限大人はいいんですか?」
「私も小黒に賛成だよ」
 そう言って、ソファに深く腰掛けて動こうとしないので、私もその隣に座ることにした。二人で、小黒が美香の機嫌を取ろうとあれこれ手を尽くしているのを眺めた。美香は丸い目を見開いて、じっと小黒の方へ向けている。たぶん、動いていることくらいはわかるのだろう。
 その日は、春節の番組なんかを見ながらみんなでゆっくりと過ごした。

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