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「女の子ですね」 お腹に超音波を当てて、胎内の赤子の様子を丹念に観察して、お医者さんはにこりと笑った。女の子! 私は口を両手で抑え、无限大人は椅子から立ち上がりそうになってガタッと音を立てた。それから、二人で顔を見合わせ、喜びを分かちあった。 「女の子かぁ……」 「小香に似るだろうか」 「顔立ちもだいぶはっきりしてきてますからね。どうでしょう?」 そう言いながら、お医者さんは画面に映った赤子の顔の当たりを指さしてみせる。无限大人は画面に顔を寄せてじっくりと確認した。 「どうですか?」 私は動けないので、无限大人の答えを待つ。 「君の口元と頬の丸さがそっくりだ。とてもかわいいよ」 「ふふっ! そんなに似てるかな?」 まだ荒い画像なのに、とても愛らしく見える。小さくて未熟な手足を動かして、ゆらゆらしている姿はなんだか楽しそうだった。 「女の子かぁ。どんな子になるかな、无限大人みたいに……」 力が使えれば、と言いそうになって、お医者さんは霊質のことを知らないことを思い出し、口を閉じた。 「えっと、強くて、利発な子になってほしいな」 「君に似た、優しい子になるよ」 无限大人は画面ではなく私のお腹の方に向き直り、微笑みかける。 「そろそろ、おまえの名前を考えないといけないな」 「そうですね。何がいいかな」 「女の子だから、香を入れるのは決まっているな」 「素敵な名前を考えたいですね」 この子の行く末を明るく照らすような、いい名前を付けてあげたい。 検査を終えて、その日はそのまま家に帰った。お腹は大きくなり、重さを感じる。歩くときも、荷物を抱えているときのように、注意深くゆっくり足を運ぶようになった。 无限大人は私が転んだりしないように、常にそばに寄り添ってくれている。 家に帰って、ソファに座る。余り動いていないのに、疲れてしまった。ソファに座るときも、お腹を支えながらゆっくりと腰を下ろす。動く時は、常にお腹を意識して、守るようにしていた。无限大人は、寝室から本を持って戻ってきた。 「名付け事典だ。これで、いい名前を探そうかと」 「いいですね! 何かいいのありました?」 无限大人は付箋を貼ったページを見せてくれる。 「玉香、雪香、花香……色々あるんですね、香のつく名前」 「ああ。だが、どれと決めかねるな」 「香香もかわいいですね」 「うん。歴史上の人物で、香香公主という人がいる」 「へえ。お姫様の名前なんですね。それもいいな。でも、日本だとパンダの名前っぽいかも」 できれば日本でも、不自然に感じないような名前がいいかもしれない。 「あ、美香(めいしゃん)って名前もあるんですね。日本でも、この名前あるんですよ。みかって読みます」 「ミカ、か」 无限大人は私の発音を真似して繰り返す。 「香という字には人気者という意味もある。美しく、人に好かれる人、という名前はいいかもしれないな」 「そうですね。めいしゃん……みか、か……」 何度か口に出してみて、確かめる。なんだかこれ以外ない気がしてきた。 「いいですね、美香ちゃん。美香。どうですか?」 「いいと思う。これにするか」 「はい!」 はっきりと頷いて、お腹に手を当てる。 「あなたはどう思う? 美香ちゃん。気に入ってくれるかな」 そのとき、胎動を感じて、答えてくれたような気がして笑みがこぼれる。 「今、動きました! 喜んでくれたのかな」 「きっとそうだな。美香。おまえの健やかな成長を、私たちは祈っているよ」 无限大人もお腹に手を当てて、優しく話しかけた。しばらく美香は、羊水の中でくるくると元気に動いていた。 ← | → |