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「小香、許可が出たよ」 无限大人が嬉しそうに声を掛けてきたので、後ろの小黒を見ると、小黒はにこっと笑って頷いた。私は无限大人と向き直り、手を合わせて喜びを伝えた。 「やりましたね! お待ちしてました!」 「さっそく、今度ドライブに行こう」 无限大人の運転技術は小黒が納得できるところまで向上したらしい。私が乗っても大丈夫とお許しが出て、とても嬉しかった。これでようやく、无限大人の運転する車に乗れる。 「どこか、行きたいところはある?」 「そうですね……せっかくだし、景色のいいところに行きたいです」 「わかった。考えておこう」 无限大人に行き先を任せて、ドライブ当日を楽しみに待つことにした。 季節はもう6月だ。少し前まで雨が多かったけれど、今日はよく晴れていた。どきどきしながら、門の前で待つと、无限大人が駐車場から車を回して戻ってきた。 私はさっそく助手席のドアを開けて乗り込む。新しいシートの匂いがした。シートベルトをしっかり締めて、ハンドルを握る无限大人を見る。无限大人は頷いて、車を静かに発信させた。滑り出しは滑らかで、初めに見せたようなぎこちなさはすっかりなくなっていた。今日は、小黒は小白ちゃんたちと遊びに行っている。二人きりのドライブだ。 「今日はどこへ連れて行ってくれるんですか?」 「雁蕩山だよ。温州の景勝地だ。少し遠いが、大丈夫か?」 「はい! 楽しみです」 「具合が悪くなりそうなら、すぐに言って」 そうします、と約束して、私たちは家を離れる。无限大人は慣れた様子で運転するので、不安もなく、ハンドルを任せられた。 「小黒と、どんな訓練をしたんですか?」 「家の周囲を何度も回ったよ。安全に走れるようになるまで」 「ふふ。もうすっかり運転上手ですね」 「これで、君をどこへでも連れて行けるよ」 「嬉しいです。電車だと行くのが難しい場所もたくさんありますもんね」 駅から離れているところには、バスが出ていることもあるけれど、自家用車の方が何かと融通が効くだろう。 ぽつぽつと会話をしながら、車を走らせるうちに、街を抜け、道は山間に入っていった。 「曇ってきましたね」 朝は青空が見えていたのに、気がつけばだいぶ雲が広がっていた。降り出しそうだ、と思っているうちに窓ガラスに水滴がぶつかって弾けた。 「降ってきましたね」 无限大人はワイパーを動かして視界を確保した。見えてきた山には白く烟るように雲がかかり、なんだか神聖に見えた。 切り立つ峰は物語の中の舞台のようで、まるで現実ではないような気がしてくる。車という人工物の中から、深い緑に覆われた山々を見上げるのは不思議な気分だった。 道は山の中へ入り、上り坂になる。无限大人は問題なく登って行った。雨のせいかエンジン音が吸い込まれてしまうようで、妙に静かに感じる。 「寒くはないか」 「大丈夫ですよ」 雨のせいだけでなく、登るにつれて気温が下がっていくようだ。ふいに目の前が開けて、広い駐車場についた。近くにはいくつか飲食店がある。无限大人はそつなく車を止めた。小雨で、傘を差すほどではなさそうだったのでそのまま外に出る。无限大人は雨を防ごうとするように私の身体を抱き寄せた。その温もりに、自然と笑みが浮かぶ。 「車を運転する无限大人はかっこいいけど、触れたくても触れられないからちょっと困ってたんです」 その身体に寄り添って、素直に思っていたことを話すと、无限大人は笑って私を引き寄せた腕に力を込めた。 「これでも緊張しながら走っているんだ。そんなことを言われては、気が散ってしまう」 「ふふ。全然そうは見えませんでした」 「雨はまだ慣れないからね。あまり降らなくてよかった」 おしゃれなお店でランチを食べて、帰りは別のルートを辿った。去り際に雲が途切れ始め、太陽の光が割れ目から降り注ぎ、荘厳な景色が見られた。 「雄大で、なんだか別世界みたいです……」 「これも、私たちの住む世界の姿だよ」 「そうですね……ビルに囲まれてると、忘れちゃいます」 こんなに美しい場所がこうしてあることを直接この目で見ると、心が震えるほどの感動を覚える。けれど、そういう場所にも人間が便利なように道路を作っているのもまた現実だ。人間はその知恵を使って環境をどんどん作り替えていく。その行き着く先はどこだろう。 でもきっと、人間だってすべてを変えてしまうことなんてできない。最後にはやっぱり自然が残るんだろう。そんな力強さを感じる光景だった。 「ありがとうございました。ここに来られてよかったです」 「気に入ってくれたなら、よかった」 太陽は西に傾き、濡れた道路はオレンジに変わり始めた陽の光を反射してきらきらしていた。 ← | → |