8.春節三度

 无限大人と出会って三回目の春節がやってくる。一回目は、まだ出会ったばかりで、0時ちょうどにお祝いのメッセージを送るだけで精いっぱいだった。それが、二回目は一緒に過ごすことができるようになって、今年も同じように、二人にうちに来てもらうことになった。
 今日は除夕だ。食材を買ってきて、年夜飯の準備をしていた。メインは餃子だ。二人とも、慣れた手つきで餡を皮に包んでいく。大きなお皿の上にきれいに並べられていくのが見ていて楽しかった。
「ふふ。二人とも、もう職人ですね」
「えへん!」
 二人を褒めると、小黒は得意気に胸を張り、无限大人も同じくらい自信に満ちた笑顔を浮かべた。そんな二人がおかしくて、肩を揺らして笑うと手についた粉が舞い上がってしまった。
 餃子を作り終わって、今夜の分を水餃子にして、残りをしまっておく。春節の間に少しずつ食べる分だ。煮魚や焼き魚、いろいろな料理をテーブルに並べて、ちょうどご飯が炊けた。
「じゃあ、食べましょうか」
「やった! 食べよ食べよ!」
 小黒は跳ねるようにして椅子に飛び乗る。私もテーブルに座って、お箸を手に取った。たくさん作った料理は、二人の手によってどんどん消えていく。お腹が膨れるにつれて、二人とも満足そうな顔になっていくのが見ていて嬉しい。二人のために料理を作るようになって、私の腕も少しは上がったと思う。こちらの料理も、調理方法も、いろいろ覚えた。二人に少しでも喜んでほしいと思うと自然と頑張れた。人の為に、というのはこういうことなんだなと改めて感じる。仕事でも、妖精たちのために、と頑張っているつもりだけれど、プライベートでは気を抜いていた。二人に出会って、本当に日々の生活が充実した。気が付けば過ぎていた季節が、ひとつひとつ、大切な時間となり、色とりどりの思い出が積み重ねられていく。自分の家庭を持つ、というのはこういうことなんだろう。先のことを考えるとき、必ず隣には二人の存在がある。自分だけのことだけではなくて、二人の存在を勘定に入れて、考えることになる。夕飯の買い物で買いそろえる食材の量から、旅行に行くとき必要になるチケットの枚数まで。二人が、私の人生を何倍にも豊かなものにしてくれる。来年も、再来年も、こんな風に過ごしたい。
「今日はぼくも起きてる!」
 そろそろいつもなら寝る時間なのだけれど、小黒はそう言って腕を組み、リビングにあぐらをかいて居座る姿勢をとった。私は无限大人と顔を見合わせる。无限大人はすでに眠そうな目を頑張って開こうとしている小黒の顔をじっと見つめた。
「そうか。では、やってみなさい」
「うん」
 私と无限大人はお酒を飲み、つまみを食べながらまったりと時間を過ごした。小黒はしばらく頑張っていたけれど、たまに身体が揺れて、首ががくんと下がる。そのたびにはっとして首をぶんぶん振り、瞼に力を入れて閉じないように頑張る。
「小黒、ゲームする?」
「……する!」
 ただ起きているだけは辛いだろうと、トランプを持ってくる。无限大人と三人で、いろいろなゲームをした。
「やったー! ぼくの勝ちー!」
 そこまで負けっぱなしだった小黒は、最終的にようやく勝利をして、喜びに腕を天井に向けて突き立てたあと、ばたんと後ろに倒れた。
「小黒!?」
「大丈夫。眠っただけだ」
「あら……」
 見れば、安らかな寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていた。
「頑張ったな」
 无限大人は優しく声を掛けて小黒の身体を抱き上げると、寝室に運んでいった。
「ぐっすりだよ」
「ふふ。明日、起きたらすねちゃいそうですね」
 どうして起こしてくれなかったの、とむすっとする顔が想像できる。无限大人はトランプを片付け終わった私の手を引いて、ソファの隣に座らせた。腰に腕を回して、寄り添う形になる。
「やはり、春節の方が本来の年の始まりと感じるな」
「ずっと、そちらを祝ってたんですもんね」
 グレゴリオ暦が採用された歴史は、无限大人にとってはまだ浅いだろう。
「君とまた新しい年を迎えられることが、嬉しいよ」
「私もです。こうやって、毎年新年のお祝いができることが……幸せです」
「うん。幸せだ」
 満ち足りた想いで目を閉じて、額を合わせる。
「まだ、夢みたいに思ってる?」
「少し……でも、たくさん想いをもらいましたから……もう、身体中に染み渡っています」
「それはよかった」
 无限大人に愛されている。それは自惚れじゃなくて、惜しみなく与えてくれるものを受け取って、私という器が満ちていくという証がある。私も同じくらい、返していきたい。无限大人を好きだという想いは、負けないくらいあるつもりだ。
「愛している。心から」
 でも、こんなにも大きな想いに包み込まれてしまうのは心地よくて、身体の力を抜いてすべてを委ねてしまいたくなる。
「大好きです。誰よりも」
 指を絡めて、見つめ合う。外で花火が打ち上がる音がして、日付が変わったことを知った。

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