86.職場へ報告

まずは、楊さんに報告して、そのあと、同僚たちにも妊娠したことを伝えた。
「やったじゃん! おめでとう!」
雨桐は特に喜んでくれて、みんなが祝福してくれた。それがとても嬉しくて、心が温かくなる。
「でも、仕事来て大丈夫なの?」
「あはは、まだお腹も大きくなってないのに」
「无限大人が止めるかと思った」
「なんでわかったの!?」
雨桐の言葉に、みんなが確かに、と頷く。どうしてみんな、そんな无限大人のこと知ってるんだろう……!?
「あの人、小香のことになると過保護だもん」
「ね! 風邪引いた時とかすごく心配そうにしてたもんね」
「大事にされてるよねぇ」
第三者の目から見た无限大人の話を聞くのは新鮮で楽しい。過保護なこと、知られちゃってるんだ……。
「料理するときも、ずっとぴったりくっついて、怪我しないかって見張られてました」
「さすが、妻の身体に傷一つつくのを許さない夫の鑑」
「まあ、妊娠初期は気をつけすぎるってことはないだろうから」
「无限大人もすごく喜んだでしょう」
「うん……。ありがとうって言ってくれて、すごく嬉しかった……」
「ひゅー、のろけだ!」
「お熱いわ」
「うっ、聞かれたから答えたのに!」
からかわれて、顔を赤くしてしまう。
「なんにせよ、大事にしてね。何かあったらみんなで助けるから、些細なことでも相談してちょうだい」
「ありがとうございます!」
一番年上の同僚がそう言ってくれて、みんなも頼もしく頷いてくれた。本当に、いい職場に恵まれたと思う。

「小香、聞いたわよ……」
午後には深緑さんが顔を見に来てくれた。
「子供ができたって……。おめでたい事だそうね。だから、お祝いに来たの……」
「ありがとうございます! わざわざ来てくれて嬉しいです。でも、話が伝わるの速いですね」
「无限大人のことだもの……みんな聞きたがるわ……」
朝話したことがもう館全体に伝わるとは思わなかった。深緑さんは当然とばかりに微笑む。
「小香さーん!!」
そのとき、入口から駆け込んでくる姿があった。明俊さんだ。
「あら、明俊……あなたも来たの……」
「あ、深緑さん! 先を越されちゃいましたかー」
二人はいつの間にか知り合いになっていた。明俊さんは頭をかきながら私の方へ向き直る。
「聞きましたよ。おめでたですって! おめでとうございます! 私もう嬉しくなっちゃって、飛んできました」
「ふふふ。ありがとうございます!」
「いいですねぇ。幸せに満ちた笑顔だ。でも、まだお腹膨らんでませんね?」
明俊さんは不思議そうに変化のない私の身体を眺める。
「これからです。今は赤ちゃんは、まだすごく小さいので」
「ははぁ。妖精も、最初はこんな小さな霊質の塊から始まりますからね、人間もそうなんですねえ」
明俊さんはわかったというように何度も頷く。
「お腹に別の生き物がいるって、どんな気分……?」
深緑さんも、想像がつかない様子で訊ねてくる。二人が人間の子供の出来方に興味を持ってくれるのが嬉しかった。
「幸せですよ。私と、无限大人の血を受け継いだ子供ですから。すごく幸せに感じます」
「そうなの……」
「それは、顔を見ていればよくわかりますよ。よかったですねえ」
「はい」
納得したような二人に、満面の笑みで答える。それから、他にもたくさんの妖精が訪れてくれて、口々にお祝いをしてくれた。そのお祝いは、数日間止まなかった。

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