81.羅家と新年

「新春快楽!」
翌日、居間で全員が顔を合わせて、改めて春節の挨拶をした。朝ご飯を食べて、小黒たちは落ち着かない様子だ。
「早く花火やろ! 花火!」
こちらでは、春節に爆竹を鳴らしたり、花火をしたりする習慣がある。都会ではなかなか花火ができる場所がないけれど、おじいさんのうちの庭は広いから気兼ねなくできる。
小黒たちは箱に入った花火を開けて、どれを使おうかわくわくしながら選んでいる。おじいさんにバケツの場所を聞いて、水を入れて持ってきた。使用後の花火を消化する用だ。火はライターでつける。
「ゲームの中だったら自分でつけられるのにな」
小白ちゃんは指を鳴らそうとするけれど、うまく鳴らなかった。ゲームというのは衆生の門のことだろう。
「小白ちゃんは火属性なんだ?」
「うん! 小香さんは?」
「私は水だよ。まだぜんぜんだけど」
最近はあまりログインできていないので、修行は止まったままだ。
「阿根くんは、氷なのよね?」
「はい。水も操れますよ」
阿根くんが指を立ててみせると、バケツの中の水が揺らめいて、水滴が飛び上がり、阿根くんの指の回りをくるくると回った。
「すごい! 私もできるようになりたいなぁ」
関心していると、待ちきれない小黒が花火に火を点け始めた。
「いくよー!」
めらめらとライターの火が花火の先端をなめていたかと思うと、ぼっと火花が飛び出した。
「わ! 綺麗!」
小白ちゃんは喜んで、自分の花火を近づけて火を分けてもらう。朝の日の中でも、花火の光は明るく見えた。
「はい、小香さんも」
「ありがとう」
阿根くんに花火を分けてもらって、小白ちゃんの火をもらい、花火を点ける。
「おぉ、綺麗じゃのぅ」
後からおじいさんと无限大人が庭に出てきた。おじいさんは手に清酒瓶を持っている。朝から呑むつもりのようだ。
「ほれ无限大人も、一杯」
无限大人はおじいさんからお酒を受け取って、くいと煽った。昨日も散々呑んでいたのに、全然酔ってないみたい。
「小香も、ほれ」
「あ、おじいちゃん、それは駄目だよ」
一杯だけなら、と思って受け取ろうとすると、阿根くんに止められた。
「それ強いやつでしょ」
「无限大人は平気で呑んどるぞ」
「そりゃ无限大人は強いだろうから」
とにかく駄目だよ、と繰り返す阿根くんに構わず、ほろ酔いのおじいさんは私にしきりにお酒をすすめてくる。阿根くんが止めるほど強いなら、呑まない方がいいだろう。
「小香、これが一番美味しいんじゃよ」
「でも、阿根くんが駄目って言うので……」
「ちょっとだけ、なめるだけ」
少しでも呑めば納得してくれるかな、と思った矢先、无限大人が手を伸ばしてきて、おじいさんから杯を取ると飲み干してしまった。
「おおー、いい呑みっぷりじゃのう!」
それにおじいさんは気を良くして、无限大人にどんどん呑ませた。大丈夫かな、と心配して見ていると、无限大人は少しも頬を赤くしたりせず、素面のような顔で笑ってみせた。
代わりに私の頬が赤くなってしまった。かっこいい。
「阿根! 小香も花火やろ! なくなっちゃうよ!」
小黒に呼ばれて、花火に戻った。花火を楽しんだり、楽しんでいる皆を撮ったり。そのうちに羅さんたちも来た。とても賑やかな春節だった。

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