78.羅家に向かう |
「本当にいいのかしら。私たちもお邪魔して」 荷物を手に、羅家に向かっている途中、最後の最後のためらい。小黒はにこにことして私を振り返った。 「いいんだよ! 小白がいいって言ったんだから!」 小黒と手を繋いでゆっくり歩幅を合わせながら歩いている无限大人は、小黒のご機嫌さに頬を緩めている。一番春節を楽しみにしているのは小黒だ。今回は、小白ちゃんのおじいちゃんの家に、私たちも招かれることになった。引越してきてから、羅さんには本当にお世話になっている。小黒を含めて、私たちとも仲良くしてくれている。だから、こうして家族ぐるみでのお付き合いができるのがとても嬉しい。 「小香! 旦那さんも、いらっしゃい!」 羅さんのマンションの前に、羅さんと車が待っていた。 「小黒ー!」 小白ちゃんが車の窓を開けて小黒に手を振る。小黒もにっこりとして手を振り返した。 「すみません。お世話になります」 「いいから、いいから! 荷物は後ろに乗せて」 羅さんはトランクを開けると、私たちから荷物を取り上げてぽんぽんと詰めていく。もともとそんなにスペースのなさそうなところに、ぎゅうぎゅうと力押しで詰め込んで、無理やりドアを閉めて押し込めた。 「よし、入った」 羅さんはひと仕事やり遂げたように手をぱんぱんと叩いて、助手席に乗り込む。 「狭いけど、後ろに乗ってちょうだい」 「小黒は猫になった方がいいな」 无限大人は車のサイズを見て小黒に言う。小黒は素直に猫の姿になり、するりと先に乗り込んだ。 「ごめんね、小白ちゃん。狭くない?」 「大丈夫です!」 私と无限大人が左右に座って、小白ちゃんを挟む形になる。小黒は小白ちゃんの膝の上、特等席でさっそく丸くなっていた。 「賑やかでうれしいな」 「にゃあ」 足を揺らす小白ちゃんに、小黒も嬉しそうに鳴いた。車のエンジンがかかり、がたがたと走り出す。運転しているのは羅さんの旦那さんだ。 「田舎までちょっと遠いんで、辛抱してくださいね」 羅さんはシートから首を伸ばして後ろを振り返り、私たちを気遣ってくれる。道すがら、もっぱら会話をするのは女性陣だった。小黒は丸くなって寝ていたけれど、ときおり耳がぴくりとするから聞いているのかもしれない。羅さんも小白ちゃんもおしゃべりだ。私は二人の面白い会話に笑いっぱなしだった。 「小香さんは、館で働いてるんですよね」 「そうだよ」 「すごいな! 妖精たちのために働いてるんですね!」 「実家が、ずっと館と関わってきてたから。私も自然とそうなっただけだよ」 「いいな。私は、お兄ちゃんがいたけど、他の妖精とは会ったことなかったから。小黒の誕生日パーティでたくさんの妖精に会えて、とても楽しかった!」 小白ちゃんたちが館に招かれたのは特例だ。館の関係者以外の人間があそこに入ることはほとんどない。もちろん、小白ちゃんたちを招くことを反対する妖精はいなかった。彼女は執行人无限大人と、その弟子小黒の友達だ。 「困ってる妖精を助ける仕事なんて、素敵だな」 「私がしてるのは事務仕事みたいなものだよ。无限大人みたいに直接役に立てるようなものじゃなくて、ちょっとお手伝いする程度だから」 きらきらした瞳を見ると、なんだかとても大袈裟に捉えられている気がして、訂正をしておいた。けれど、小白ちゃんはその瞳のまま力強く言ってくれた。 「そんなことない! 執行人とは違う方法で、たくさんの妖精を助けてるんだよ。小黒が話してくれたの、小香さんは優しくて、ソファみたいな人だって!」 「ソファ?」 思ってもみないことを言われて、小白ちゃんの膝の上を見ると、小黒はちょっと耳を下げて、気まずそうにしていた。 「いつもそこにあって、疲れた体を柔らかく支えてくれるから」 ふいに口を開いたのは无限大人だった。小黒のたとえを、そんなふうに訳してくれる。 「そんな存在に……なれていればいいですけど……」 やたらと褒められてしまい、照れくさくて変な笑みを浮かべてしまう。こんな、逃げ場のない場所で言われると困ってしまう。でもやっぱり、そんなふうに思ってもらえているなら嬉しかった。照れている私に、无限大人は優しい眼差しを向けてくれていた。 「この先揺れますよ」 羅さんの注意が早いか、がくんと車体が沈んで、シートから浮き上がるかと思った。気が付けば、車は街を抜けていて、舗装されていない道を進んでいた。 ← | → |