74.おせち作り

夕飯のあとはテレビを見ながらおせちの準備をした。二人が今年も食べたいと言うので、みんなで作ることにした。
「ぼく、これ好き!」
小黒は、たこ糸で縛った鶏肉を指さした。これから茹でて味付けをし、一晩寝かせる。
「あとね、かまぼことね、海老とね、松風焼きと……」
思い出すように指折りながら小黒は好きなものを上げていく。今から食べるのが待ち遠しいようだ。
「煮染めはいいかな……」
大きなお鍋で煮ている方に横目を向けて、小黒は呟いた。
「好き嫌いしない」
隣の无限大人が小黒の方を見ないままぴしゃりと叱る。小黒はちえ、と唇を尖らせた。
「これで準備はおっけーかな」
たくさんの食材を並べて散らかった台所を片付けながら、準備できたものを確認する。
「小黒、お手伝いありがとう。お風呂入っておいで」
「はーい」
小黒はぱたぱたとキッチンを出ていった。
「无限大人もありがとうございます。先に……」
「片付けもするよ」
お風呂に、と言う前に、无限大人は散らかったごみを拾い始めた。二人で片付けるとすぐに終わった。
「ふぅ。大仕事でしたね」
「お疲れ様。先にお風呂に入るといい」
「でも……」
「それとも、一緒に入る?」
无限大人にいたずらっぽく言われて、身体がかっと熱くなる。
「いえ……! お先にいただきます!」
慌ててエプロンを脱いで、その場から逃げ出した。もう、急にからかってくるから油断がならない。……本気だとしても、困るけれど。
お風呂を出てから、小黒が眠くなる前にお蕎麦を食べることにした。日本から送ってもらった乾麺を茹でて、おつゆを作る。葱を散らしただけのシンプルなものだ。
「はい、どうぞ」
三人分をテーブルに置いて、みんなで座って食べた。
「おせち作ったからお腹空いちゃった」
そう言って、小黒はするすると蕎麦をすすっていく。夕飯はとうに消化してしまったらしい。
「美味いな」
无限大人と年越し蕎麦を食べるのははじめてだ。気に入ってもらえたようでよかった。食べ終わったあとは歯を磨いて、テレビをつけてリビングでゆっくり過ごした。
「今年こそは起きてるから……!」
小黒はぎゅっと眉根を寄せてテレビを睨みながら宣言する。
「もう眠そうね」
「眠くない!」
しばらくは頑張っていたけれど、そのうち目がとろんとしてきて、首がかくん、と船を漕ぎ始める。
「ベッドで寝ておいでよ」
「やだ……起きて師父と、小香と年越しする……」
小黒の身体が私の方にもたれかかってくる。そのまま膝の上に寝かせてやると、抵抗して起き上がることもなく、静かな寝息が聞こえてきた。
「ふふふ。寝ちゃった」
「寝かせてこよう」
ふわふわの髪を撫でていると、无限大人が小黒を起こさないように抱き上げて、部屋へ連れていった。一緒に年が越せるようになるのは、まだ数年先のようだ。
「よく寝ているよ」
无限大人はすぐに戻ってきて、私の隣に座った。そしてしばらく考えるようにじっと私の膝を見ていると思ったら、そこに頭を乗せて寝転がった。
「あら」
「しばらくこうしても?」
「ふふ。无限大人も寝ちゃうんですか?」
「このまま寝たらいい夢が見られそうだ」
なんだか満足そうな声音だった。手が置きやすい位置なので、頭の上にそっと手を乗せて、撫でてみる。小黒のふわふわの髪とは違う、さらさらとした手触り。无限大人は何も言わず、されるがままになっている。
「……大人? 寝ちゃいました……?」
あまりに静かなので、そっと訊ねると、无限大人は身動ぎした。
「いや。気持ちいいから、そのままで」
「いいですか?」
催促をされたので、また撫でるのを再開する。つやつやとした髪は触り心地がよくて、いつまで撫でていても飽きなかった。
しばらくして満足したのか、无限大人は身体を起こして私の隣に座り直した。
「去年は任務で一緒に過ごせなかったな」
「そうでしたね。でも、春節は一緒にいられましたから」
「君にとっては、この日の方が重要なのだろう」
「重要……てほどでもないですけど……習慣になってますから」
私の感覚を尊重してくれているのがわかって、嬉しくなる。
「やっぱり、一緒に年を越せるのは嬉しいです」
手を握ると、指を絡められた。もう、ずいぶん一緒にいる気がするのに、きっとまだまだ、二人でやっていないことはたくさんある。これから、ひとつずつやっていきたい。
見つめられているから顔をあげると、深い色の瞳と目が合った。无限大人はそのまま顔を近づけ、キスをする。受け止めてしばらく触れ合っていたけれど、少し深くなってきたのでいったん離してもらった。
「年越し……するんですよね?」
「……そうだな」
无限大人はちらりと時計を見る。まだ一時間以上はあった。
「そのあとにしよう」
「……っ」
唇に触れられて、微笑を浮かべられるので、なんとも答えづらかった。それからは、テレビを見ながらカウントダウンを迎えたけれど、つい、早く日が変わればいいなんて思ってしまった。

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