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ぐるりとショッピングモールを回って、服を見る。これから本格的に寒くなるから、ショップも冬物一色だ。 「このコートかわいいなぁ」 目に付いたお店に立ち寄り、コートを手に持ってみる。 「どうですか?」 そして身体の前に持ってきて、无限大人に見てもらった。 「うん。似合うよ」 「このシルエットかわいいですよね。あっ、こっちもかわいい」 奥にあったコートが目について、今度はそちらを手に取ってみる。鏡の前で、二着を交互に確かめた。 「ううん、こっちは持ってるやつに似てるかも……」 やはり好みだからか、似たようなものをつい選びがちだ。 「こちらの方が暖かそうだね」 无限大人は初めに見つけた方の生地を触りながら言った。 「そうですね。でも、もうちょっと明るい色の方がいいかな」 襟やボタン、裾の形をためつすがめつして、もう一つ押しが足りないと感じてきた。 「うーん、これじゃないかも」 結局二つとも元の場所に戻して、ざっと店内を見回してから、別の店に行くことにした。さっきから、何度かこんなことを繰り返している。 「なかなか欲しい服見つからないな」 「じっくり探せばいい」 无限大人は不平も言わず付き合ってくれる。そろそろ无限大人の方の服を探したい、と思った矢先、よさそうな店舗が目に止まった。 「无限大人、あそこはどうですか?」 シンプルで、品質がよく、落ち着いた雰囲気のブランドだ。无限大人に似合いそうだと思って、店に入る。 「どういう服が欲しいとか、あります?」 「ジャケットと、セーターを買おうかと」 「了解です!」 張り切っていいものがないかと店内を探す。无限大人は私から離れないようにしながらも、自分でも棚を眺めていた。 「これとかどうですか?」 見つけたブラウンのジャケットを无限大人に勧めてみる。无限大人の前に当ててみると、なかなかよさそうだった。 「いいな。試着してみよう」 无限大人は店員さんに声をかけて、サイズを確認すると羽織ってみた。身体に沿ってすらっとしたラインが出て、大人っぽい印象になる。 「すごく似合います……!」 思った以上の着こなしで、つい興奮してしまう。无限大人はそれを聞くと、悩まず店員さんに「これをもらおう」と伝えた。 「无限大人の買い物は早いなあ……」 「君が選んでくれたからね」 「私はどうも悩んじゃって。やっぱり長く着たいから、しっかり吟味したくなるんです」 そして吟味した結果、これじゃないかもしれない、となって戻してしまう。 「あ、化粧品、見てもいいですか?」 今日は服を見るつもりで来たけれど、通りかかった化粧品店を覗いてみた。 「かわいいな」 新商品の棚を眺めて、テンションが上がってくる。シンプルなものから、キラキラした宝石のようなもの、古風な花が描かれたものなど、様々なパッケージを眺めているだけで楽しい。 「小香」 「なんですか?」 そばにいると思っていた无限大人が少し離れたところにいて、私を呼ぶ。近づくと、手にリップを持っていた。 「この色、試してみてくれないか」 「かわいい色ですね。ルーセントピンク」 ちょっとかわいすぎるかも、と思ったけれど、せっかく无限大人が言ってくれているので、試供品を備え付けの綿棒で手に乗せてみた。 「こんなかんじの発色なんだ。このタイプの色は持ってないかも」 「どうだろうか」 「似合うと思いますか」 「うん。かわいいと思う」 无限大人は迷わず断言してくれる。リップを選んでもらえるとは思わなくて、嬉しくなってしまった。 「それなら……使ってみます」 「ありがとう。買ってくるから、待っていて」 无限大人は微笑むと、すぐに商品を手に取ってレジに行ってしまった。本当に行動が早い。さっそく化粧室へ行って、買ってもらったリップに塗り替える。いつもと違う色だから、雰囲気が変わったと思う。 「お待たせしました」 外で待っていた无限大人の元へ、少しどきどきしながら戻る。无限大人は私の顔をじっと見つめて、満足そうに微笑んだ。 「思った以上だ。とてもかわいいよ」 「えへへ……。ありがとうございます」 並んで手を繋いで、買い物の続きに戻る。話しているときも、黙っているときも、時折无限大人は私の顔を見ては微笑んでくれるから、なんだか落ち着かなかった。 「そんなに見なくても」 「私の贈った色をつけてくれている姿を見るのが、嬉しくてね」 「そういうものですか……?」 確かに、贈り物を使ってもらうのは嬉しいけれど。无限大人はにこにこしているから、よかったと私も嬉しくなる。 「ただ、吻ができないな。色が落ちてしまう」 「そんなの、また塗れば……あ」 この言い方だと、まるでキスしたいと言っているようなものだと気づき、口ごもる。无限大人は照れる私に朗らかに笑った。からかわれたのかもしれない。でも、もちろん、キスしたくないわけがない。 「……塗り直せば、いいですから」 なので、小声で続きを呟いた。目を逸らす私を、覗き込む无限大人の視線を感じる。そして、絡めていた指にそっと力が込められた。 「……かわいすぎる」 「えっ」 熱を帯びた声音で言われて、どきりとした。ここがショッピングモールでなければ、とつい考えてしまう。 「あっ、あの、あのお店見たいです!」 なので、無理やり頭を買い物に切り替えることにした。无限大人は肩を揺らしておかしそうに笑って、「いいよ、行こう」と乗ってくれた。ほっとしつつも、まだどきどきは収まらない。唇に染められた色がずっと心の片隅を騒がせているのを意識しながら、なんとか数着、納得のいく買い物ができた。 ← | → |