6.心からのお祝い

「はぁ、温まる……」
 湯船に首まで浸かって、ほっと息を吐く。凍り付いた爪先や指先が、じれったいほどゆっくりと解れていく。
「指先がすごい色してる……。こんなに冷えてたんだ……」
「わっ、ほんとだ。大丈夫?」
 小黒は私の指先を見てびっくりして目を丸くした。小黒は妖精だからか、そこまでの寒さは感じていないようだった。
「大丈夫。今じっくり温まってるから」
「うん。ぼくもう十分温まったから、先出るね。小香はゆっくり温まってね」
「ありがとう」
 小黒は私を気遣いながら湯船を上がった。その背中を見て、大きくなったな、とふと思う。出会ってからもう二年になる。人間の子と成長は変わらないようだ。でも、小黒が人間だったら、さすがに今の年齢で一緒にお風呂は入ってくれなかったかも。去年はまだ幼かったのに、最近はなんだか少し少年らしくなってきたんじゃないかと思う。いつまでもかわいい小黒ではなく、そのうち男らしさが出てきて、背も伸びて、かっこよくなっていくんだろう。その変化が見られるのも楽しみだった。
 十分に温まって、ようやく湯船から出る決心をする。部屋に戻ると、小黒はもう寝てしまっていた。
「すみません、遅くなって」
「いいよ」
 无限大人は立ち上がり、私と入れ違いにお風呂場に向かおうとして、私の肩に手を置くと、額に口付けをして、通り過ぎて行った。
「入ってくるよ」
「は、はい……?」
 あれ、今何をされたんだろ? と戸惑っているうちに无限大人は脱衣所の戸を閉めてしまった。おでこにキスされた? そのときの愛情の籠った表情を思い出して、ぽっと頬が染まる。
「……えっ!?」
 あまりにさり気なすぎて、反応が遅れてしまった。どうしてこう、さらっとこんなとんでもないことができるんだろう。お陰でソファに座っても落ち着かないので、窓際に立って外をひたすら眺めていた。无限大人は思ったより早く出てきた。
「ちゃんと温まりましたか?」
「うん。そこは寒くないか?」
 窓がひんやりして見えたのだろう。无限大人に心配されて、大丈夫ですよと答えつつそっとその隣に移動する。さっきのせいで、まだどきどきしている。なのでじっと見つめると、无限大人は何? というように首を傾げて微笑んだ。
「ずるいです……」
「何が?」
「私はもう、どきどきしっぱなしなんです」
「私に?」
「そうです」
「それは嬉しいな」
 无限大人は朗らかに笑って、私の腰を抱き寄せる。お風呂上りのいい香りがふわっと香った。その肩に頬を預けて、目を閉じる。
「常に私のことを考えて、私のことを思っていてほしい。そんな欲深なことを考えてしまうよ」
「常に想ってます……。大好きですから……」
「こんなに深く愛せる人がこの世に生まれた日を、心から祝いたい」
「无限大人……」
「好きだよ。小香」
「ありがとうございます。私のことを好きになってくれて……」
 无限大人と見つめ合ううちに、涙が込み上げてくる。ほろほろと頬を伝う雫は温かかった。
「私を生んでくれた両親、育んでくれた家族、すべてのものに、感謝したいです。お陰で、无限大人と出会えたんですから」
「私も心から感謝しよう。君をここまで育て、私に出会わせてくれたすべてのものに」
 見つめ合う瞳がどんどん近づき、吸い込まれるように口付けをする。温かくて、柔らかくて、愛おしい。愛が胸いっぱいに溢れて、止まらなくなる。大好きです。何度言っても言い尽くせない。大好き。
 触れ合う唇に乗せて、想いを告げた。

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