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「なんか落ち込んでない?」 自分の席に戻って椅子に座った時、つい溜め息が漏れてしまった。しばらく雨桐は私の様子を伺っていたようで、ついにはそう訊ねてきた。 「うん……ちょっと……」 「何人かここの住人訪ねに行ってたよね」 「そう。何点か確認に……メッセージじゃなくて、直接話した方が早かったから」 けれど、問題は彼らではない。そこへ向かう途中に通った休憩室だ。そこにはテーブルと椅子が置かれ、誰でも利用できるようになっている。いつも妖精たちがお茶を飲んで談笑していた。 「そこでね、悪口が聞こえたの。たぶん、无限大人の」 名前は言っていなかったけれど、その内容からまず他の人についてとは考えられなかった。 「まあ、一部の妖精にとっては許せなかったりするんだろうね」 悪感情を抱いている妖精がいることはわかっているけれど、やはり直接そういう話を聞くとこたえてしまった。特に、結婚式で无限大人と親しい様子の妖精たちと出会ったところだったから、余計にショックを受けてしまった。 「妖精たちにとっては、理不尽だろうからね。一方的に法だからって言われてさ。結構乱暴みたいだし」 「うん……」 「もちろん、救われた妖精たちだって大勢いるよ」 雨桐はフォローするように付け足す。わかっている、と私は頷いた。 「私、无限大人のこと、ちゃんと知ってるのかな……」 「え?」 「妖精たちが話してた无限大人は、私の知ってる无限大人とは全然違ったの。本当に无限大人のことか疑ったくらい……冷酷で無慈悲で、乱暴で……」 「それは、誇張して話してるのよ。悪口言ってるとヒートアップしてあることないこと言い出すでしょ」 雨桐はあくまで冷静に諭してくれる。うん、と私は俯きながら頷く。 「もし、私がちゃんと无限大人のことを見ていなくて、自分の理想を見てるだけだったら……て、考えちゃって」 「あはははは」 「なんで笑うの」 真剣に話していたのに、突然雨桐は声を上げて笑った。 「いまさらそれ言う?」 「うっ、だって、不安になっちゃったんだもん……」 「痘痕もえくぼって言うしねえ。あんたの目は最初から、恋に曇ってたよ」 「ううっ……そうなの……!?」 「悪い意味じゃないわよ。好きな人のことだもん、なんでもポジティブに捉えるのは当たり前じゃん。まああんたはだいぶ肯定よりだけど」 「う、うん……」 雨桐は背もたれにもたれて、深く座り、足を組む。 「いいじゃない、それで。あんたはちゃんとあの人を見てると思うよ」 「そうかな……」 「あんたは、あんたの信じる无限大人を信じなくちゃ。それが一番だよ」 「私が信じる无限大人……」 无限大人は、やるべきことをやれる人だ。たとえ憎まれることになっても、それが必要なことなら躊躇わない。対話ですむならそれ以上のことはないけれど、それができれば執行人という役職はなくなっているだろう。あの人は、長い時間をその役割に捧げてきた。そんな无限大人を、私は好きになったんだ。 「落ち着いたみたいね」 私の表情の変化を見て、頬杖をついて雨桐は笑った。 「雨桐はすごいな。いつも私の求める言葉をくれるね」 「思ったこと言ってるだけよ。受け止めるあんた次第よ」 「ありがとう」 いつか彼らにも无限大人のことを理解してほしいと思うけれど、それは自分勝手かもしれない。彼らは彼らの言い分がある。私は、もっと強くならなくちゃいけない。彼らの気持ちを受け止められるくらいに。 ← | → |