66.峙山公園 一

「みんな、景色に夢中になってはぐれないようにね」
「はーい!」
 元気に返事をしてくれる子供たちを前に、少し緊張する。今日はこの子たちをしっかり預からないといけない。
 小黒を峙山公園に誘ってみたところ、すぐに小白ちゃんに声を掛け、最終的に山新ちゃんと阿根くんも一緒に来てくれることになった。私と无限大人は引率係だ。
「小白、ひとりで走り出さないようにね」
「わかってるよ!」
 四人の中で一番年上の阿根くんが、小白ちゃんに声を掛ける。小白ちゃんのお兄ちゃんということもあるのだろうけれど、本人の性格も落ち着いていて大人びていて、下の子たちの面倒を見てくれている。お陰で、私もそこまで気を張らずにいられるというものだ。
「綺麗に紅葉していますね。无限大人」
 公園内は見事に色づいていた。風に落ち葉が舞っている。
「うん。ちょうどいい時期だったね」
 恐らく、今が一番いいタイミングだろう。はしゃいで歩く子供たちの後ろをゆっくり歩きながら、時折カメラで写真を撮った。園内には池や噴水があり、水面に浮いた紅葉が綺麗だった。公園の中には山があり、道はその山の周りを巡るように作られていた。ところどころに古い建物があり、風情がある。
「みんな、ここで写真撮ろう」
 建物の前に子供たちを集めて、何枚か撮る。小黒はとてもいい笑顔だ。
「お二人の写真も、撮りましょうか」
「あ、じゃあ、お願いしようかな」
 カメラをチェックしていると、阿根くんがそう申し出てくれた。せっかくなので、とカメラを渡し、无限大人と建物の前に並ぶ。
「もっとくっついて!」
 阿根くんの横で、山新ちゃんが茶化してきて、困ってしまった。無視するわけにもいかず、ちょっと无限大人の方に近寄ると、无限大人は私の肩に腕を回して、引き寄せた。
「ひゅー!」
「わー、らぶらぶだ!」
 真っ赤になる私をよそに、山新ちゃんと小白ちゃんが楽しそうな声を上げる。子供の前でこういうことをするのはあまりよくないと思うのだけれど、无限大人は涼しい微笑を浮かべている。
「はい、撮れましたよ」
 阿根くんが見せてくれた写真では、私は困ったような、でも楽しそうな笑みを浮かべていた。
 さらに道なりに奥へと進んでいく。木々の色がさらに深まっていくようだ。
「小白、あの木の根っこ大きいよ!」
「ほんとだ!」
 小黒が小走りに道を逸れ、脇に生えている大木の根っこに飛び付いた。小白ちゃんもそれを追いかけて、根っこの上に乗ろうとする。小黒が先に根っこに上がると、小白ちゃんに手を差し伸べて、引っ張り上げていた。
「小黒、小白ちゃんといるとお兄ちゃんみたいですね」
 私たちの前では子供らしく振る舞う小黒が、小白ちゃんに対しては頼れる男の子になっているのがとても微笑ましい。
「あのあたり、真っ赤なもみじがたくさん生えてますけど、見に行ってもいいですか?」
 山新ちゃんが指さしたところには、道の脇から少し入ったところに赤い木が何本も集まって生えていて、そこだけ赤く染まっていた。
「小黒、小白、あちらに行くよ」
「はーい!」
 无限大人の呼びかけに答えて戻ってきた二人と一緒に、もみじの傍まで移動した。
「わ、地面も落ち葉で真っ赤だ」
 踏みしめると、さくさくと乾いた音がする。
「ここ、映えスポットね」
 山新ちゃんがいろいろとポーズを取ってくれるので、私もかわいく撮ろうと奮闘する。
「えーいっ」
 小黒は積もっていた落ち葉をかき集めると、ばっと空中にまき散らした。
「あはは、きれい!」
 その落ち葉の中で笑う小白ちゃんにすかさずレンズを向ける。なかなかいい画が撮れた。
「ん?」
 そのとき、ぶうん、という羽音がして、動きを止める。カメラをゆっくり下ろすと、目の前に大きめの虫がいた。
「わ」
 どうしよう、と思う前にその虫はかきん、と凍り付いて、ぽとりと地面に落ちてしまった。
「え……?」
「危なかったですね」
 何が起こったのだろうと首を傾げていると、阿根くんが声を掛けてくれた。
「あ、もしかしてこの氷、阿根くんが?」
「はい。余計だったかもしれませんけど」
 阿根くんは後ろの无限大人を気にして頬を指で掻いた。无限大人も虫に気付いてくれていたみたいだ。
「ううん。ありがとう。全然気づいてなかったから、助かったよ」
 改めてきちんとお礼を伝える。十分写真を撮ったので、また道に戻って先へ進むことにした。
「鈍ったな」
「む」
 後ろで、阿根くんと无限大人が何かやりとりするのが聞こえたけれど、具体的な会話内容はわからなかった。

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