65.いつでも、何度でも

リビングのソファで端末を使いながらぼんやりしていると、无限大人がブランケットを持ってきてくれた。
「寒くないか」
「大丈夫ですよ。暖房もついてますし」
「冷やすとよくないから」
そう言いながら无限大人は私の膝にブランケットを掛けてくれ、隣に座った。
「ありがとうございます」
なんだか最近、特に身体を労わってくれている気がする。ちょっと前に風邪を引いたし、心配してくれているんだろうけれど、まだ気が早い気もする。それとも、私も今から気をつけておいた方がいいんだろうか。
「今年の年末は、実家に帰るの?」
「あ、まだ考えていなかったですね。无限大人はやっぱり任務ですか?」
「まだわからないが、恐らくそうなるだろうな……」
无限大人は少し寂しそうな顔をする。去年は小黒と一緒に実家に帰って、端末で无限大人と通話した。
「じゃあ、今回はこちらに残ろうかな……皆には、結婚式のときに会えたし……」
私も无限大人と離れるのは寂しい。一緒に帰れたらいいけれど、それは難しそうだから。
「小黒も、小白ちゃんと過ごしたいって言うかも」
「確かに」
その様子が想像出来て、ふふ、と笑い合う。
「小黒にあとで聞いてみますね」
「私も、できるだけ一緒に過ごせるように調整しよう」
「はい。お願いします」
会話に一段落ついて、お茶を淹れようかと立ち上がろうとしたら、止められてしまった。
「私が淹れるよ」
「でも」
「いいから」
无限大人はそう言って台所へ行ってしまうので、立つタイミングを失ってしまった。しばらく考えて、やっぱり立ち上がった。
「どうした?」
「お菓子は私が準備します」
そう答えながら戸棚を開けて、お菓子を取り出し器に移す。无限大人は仕方ないというように笑った。
お湯が沸いて、无限大人がお茶を淹れる。私はお菓子を持って一足先にリビングに戻った。二人分のお茶を運んできた无限大人と、穏やかにおやつの時間を過ごす。
小黒がいないと、やっぱり静かだ。小黒は今日も小白ちゃん、山新ちゃんと遊んでいる。子供は子供同士で遊ぶのが一番だ。今は、无限大人と二人で過ごす時間を堪能しよう。上手くすれば、来年にはまた賑やかになっているはずだから。
「そろそろ紅葉が見頃ですよね」
「そうだな。どこかに見に行くか」
「行きたいです! 山とかいいですよね」
「峙山公園はどうかな。市で一番大きい公園だったはずだ」
无限大人が上げてくれた公園をさっそく検索する。
「いいですね。子供が遊べるような場所もある……せっかくだから……あ、でも」
言いかけて口ごもった私に、无限大人は不思議そうな顔をする。
「……小白ちゃんも誘って、小黒を連れて行ったら喜ぶかな……と思ったんですけど……でも、无限大人と二人で行くのもいいな、って思っちゃって……」
「はは。かわいいな」
无限大人は嬉しそうに笑ってくれる。
「へへ……。小黒を誘ってみて、だめだったら二人で行きましょうか?」
「そうしようか」
話がまとまったので、また取り留めもないことを談笑しながらお菓子を食べた。こうして、ただのんびりと過ごす時間がとても貴重に感じる。食べ終わった食器を片付けて、リビングに戻ろうとすると、无限大人が腰に腕を回してきた。
「无限……んっ」
どうしたんですかと聞こうとしたら、口を唇で塞がれてしまった。深く吸われて、くらりとする。そっと唇を離すと、无限大人は熱いくらいの視線で私を見つめていた。腰を抱く腕の力強さに、身体の奥が熱を帯び始める。
「あの……今……ですか……?」
求められて素直に喜んでしまうけれど、こんなに明るいうちから、と思うと恥ずかしくてしり込みしてしまう。
「ダメか?」
掠れた声で甘えるように言われて、ずくんと下腹部が疼いた。
「だっ……めじゃ、ないです、けど……」
ぐずぐずしているうちに寝室に引っ張りこまれてしまう。なすがままにベッドに寝かされて、无限大人の顔を見上げる。
「无限大人……」
「小香」
目を閉じて、熱い口付けを受け止める。愛されているという実感と、愛しているという確信が、肌を重ねるたびに深まっていく。その腕に抱かれるごとに、この身体が无限大人のものへと作り変わっていく。太陽が傾いて、日が暮れていくのを閉じられたカーテンの隙間から伸びた光で理解した。

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