63.小黒の誕生日

今年の小黒の誕生日も、また館で行われることになった。ただし今回は小黒の希望で小白ちゃんたちも呼ぶことになった。館の関係者ではない外部の人間が館に来るなんて、滅多にないことだ。それはいい傾向に思う。ケーキは別に用意されることになったので、今回は飾り付けだけ手伝うことになった。
「小香」
誕生日の前日、无限大人が真剣な顔で話しかけてきた。
「どうしました?」
「明日なんだが、小黒に長寿麺を作ってやりたいんだ。手伝ってもらえないだろうか」
「もちろんです! 美味しいの、作りましょう」
パーティには食べ物がいろいろ用意されるだろうけれど、小黒はよく食べるし、たぶん麺が増えても大丈夫だろう。何より、无限大人の気持ちを大事にしたい。
当日は館の食堂を借りて、无限大人と事前に長寿麺を作ってから会場に向かった。
会場には、館の執行人たちだけでなく、別の館の館長たち、そして諦聽(老君)まで集まっていた。改めて、小黒の人脈の広さに驚く。
「げ」
プレゼントの箱を抱えたナタ様が、无限大人を見て眉を顰めた。
「おまえ、それプレゼントするつもりか?」
近くにいた冠萱さんも、无限大人が長寿麺を持っていることに気づいて苦い顔をする。
「ああ」
无限大人は顔色を変えずに答える。そして私の方を振り返って、微笑んでみせた。
「小香と一緒に作ったからな。味は保証されている」
「なんだ、そういうことは先に言え」
「よかった、安心しました」
二人はあからさまにほっとした顔をする。无限大人は気分を害するどころか、なんだか嬉しそうだった。无限大人が料理苦手なこと、意外と広く知られているらしい。
「小黒、誕生日おめでとう」
「師父! 小香!」
ケーキのそばで、小白ちゃんたちと一緒にいた小黒のところへ、お祝いに向かう。ジュースを飲んでいた小黒はぱっと立ち上がり、長寿麺を受け取った。
「小香と作ったんだ」
「うん! ありがとう!」
「わあ、長寿麺だ」
隣にいた小白ちゃんは、暖かな湯気の匂いをかぐ。
「小白も食べる? 師父は料理下手なんだけどね、小香がちゃんと作ってくれてるから美味しいよ」
「あはは! お師匠さんなのに!」
小白ちゃんにお箸を渡すと、小黒と一緒に美味しそうに長寿麺を食べてくれた。
「无限大人、香さん。初めまして、羅根です」
タイミングを見計らって、眼鏡の男の子が声を掛けてきた。小白ちゃんの従兄弟だ。そして、ただの人間ではなく、術を使えるそうだ。小黒から話は聞いていたけれど、なかなか会う機会がなかった。
「こんにちは、阿根くん。会えて嬉しいな」
「僕もです。ご結婚されたって小黒から聞きました。おめでとうございます」
そう言って丁寧に頭を下げてから、无限大人の方を見る。
「彼からも、おめでとうと伝えて欲しいと」
「そうか。ありがとう」
彼? と思ったけれど、无限大人はそれだけで誰のことか察したらしく、深くは訊ねなかった。気になるけれど、二人の間だけの話なら聞かずにおこう。
小黒はたくさんのプレゼントをもらい、プレゼントの山に埋もれてご機嫌で料理を食べていた。小白ちゃんも山新ちゃんも、妖精たちの中にいても気後れせず、一緒に楽しんでいる。改めて、いい子たちと出会ったなと笑みが零れた。

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