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「ただいま、小黒!」 「おかえり! 小香、師父!」 小香は荷物を置くのもそこそこに、小黒を抱き締めて、頬擦りをする。小黒も存分に小香を抱き締め返したあと、私の方にも飛びついてきた。 「すんすん。なんか変わった匂いがする」 「外国に行っていたからな」 「硫黄の匂いかな?」 小黒が不思議そうに鼻を鳴らすので、小香も自分の袖の匂いを嗅いで確かめる。 「そっか、温泉の匂いか! 前師父といったとき、そんな匂いだったかも」 「まだ匂うか?」 温泉に入ったのはもう何時間も前だ。しかし、小黒の鋭い嗅覚にしてみればよくわかるくらい匂いが残っているのかもしれない。 「私たちがいない間、大丈夫だった? 何もなかった?」 「うん。小白の家にいたよ! 何も問題なかったよ」 「よかった。あとで羅さんちにお土産持って行って、お礼言わないと」 「あ! ぼくも行く!」 二人が話している間に荷物を寝室に移動して、リビングに行くと、小香がお茶をいれてくれていた。 「无限大人、帰ったばかりですから、ゆっくりしましょう」 「うん、ありがとう」 私がソファに座ると、小黒が隣にぽすんと飛び乗り、その隣に小香が座った。 「ねえ、聞かせてよ、旅行の話! あと写真見たい!」 「ふふふ。私も小黒にいっぱいお話聞いて欲しいな」 きらきらと目を輝かせる小黒に、小香が端末の画像を見せながら、旅の思い出を語った。話しているうちに夜になり、小香は夕飯の準備を始め、私と小黒はリビングで、私たちの旅の間小黒がどう過ごしていたかを聞いた。小白という子の話をするとき、小黒は本当に楽しそうな顔をする。人間の友達ができれば、と任務を出したが、この子はすでに自分で友達を見つけ出していた。 「いい匂いがしてきた」 小黒は目を瞑り、すんすんと鼻を鳴らす。確かに、暖かくて食欲をそそる、いい匂いだ。 「へへ。ぼくね、小香のご飯、大好きなんだ」 「ああ、私もだ」 「久しぶりに食べれるね!」 「うん」 旅行中、美味いものを食べてはいたが、そろそろ小香の作る料理が恋しくなっていた。台所で、エプロンをして、細々と動いている後ろ姿を見ると、愛おしさが込み上げてくる。 以前より、料理の品目が増えている。私たちに作るために、新たな料理を覚えて、作れる品目を増やしてくれている。私も早く料理の腕を上げて、二人に喜んで食べてもらえるようになりたいところだ。 「无限大人、小黒、ご飯できましたよ」 「はーい!」 小香の台詞を待ち構えていた小黒は、少しでも早く移動しようと猫の姿になってテーブルに乗った。 「こら、椅子に座りなさい」 「へへへ、待ちきれなくて!」 小香に怒られながら、小黒は人の姿になり、椅子に座り直した。私もその隣に座る。 「小香のご飯がやっぱり一番だね!」 「うん。一番だ」 「なんですか、急に。ふふ、そう言ってもらえると嬉しいです!」 久しぶりに三人で食卓を囲み、食べ終わったあとは風呂に入って、またリビングでまったりと過ごした。 「小黒、明日の準備はできてる?」 「大丈夫! 宿題も終わってるよ」 「じゃあ、そろそろ寝ようか」 「うん……でも……」 小黒は珍しく、歯切れ悪くもじもじしながら私たちの顔をうかがっていた。何か言いたいことがあるようだ。 「ぼくも……今日は、一緒に寝てもいい?」 「いいよ! 私も小黒と一緒に寝たい!」 小香が喜んで小黒をぎゅっと抱きしめた。旅行に行く時、小黒がいないことをずいぶん寂しがっていた。小黒も、あっさりしていたように見えて、実際に離れて過ごして寂しさを感じたのだろう。 「へへ、川の字だ」 小香の腕の中で、小黒はにこにこと頬を緩める。その頭をくしゃくしゃと撫でてやった。小黒はますます蕩けた笑みを浮かべた。家族三人で暮らせることの幸せを改めて噛み締める。 寝室に行って、電気は付けず、そのまま布団に入る。小香が奥へ行き、その隣に小黒が寝転がって、最後に私がその横に寝そべった。小黒の上に腕を伸ばし、小香の腰へ回して、二人一緒に抱き締める。 「おやすみ、師父、小香」 「おやすみ、小黒」 「おやすみ」 宿のベッドも快適だったけれど、やはり自分の家のベッドというのは全然違う。いままでは野宿や安いホテルで日々を凌いでいた。それが、二人と出会い、定住する家を持つまでになった。任務が終わり、帰る場所があることを実感する瞬間が、とても幸福に思える。玄関を開ければ、二人が出迎えてくれる暖かな家。それを私が持てる日が来るなんて、思っていなかった。温もりを与えてくれた大切な二人の穏やかな寝息を聞きながら、抱き締める腕にそっと力を込める。 「好きだよ、小黒。小香」 かけがえのない存在。もう、失うことは考えられない。大事に守っていこう、私の力の及ぶ限り。 ← | → |