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十分食べて、温まって、気合を入れて外に出た。ハルビン氷祭り本番だ。外はすっかり暗くなっていたけれど、ライトアップされた方角が明るくなっている。明かりの方へ、人々が引き寄せられるように集まっていた。私たちもその波に乗って、会場へ向かう。 「わぁ……!」 想像以上に大きくて、繊細で、ダイナミックな氷像が色鮮やかな光に照らされて、幻想的な光景が広がっていた。 「すごいきれい……!」 一瞬寒ささえ忘れて、その光景に魅入る。西洋風の城や、豪華な建物がずらっと並んでいて、その上に人が登っている。 「いってみようか」 「はい!」 无限大人に手を引かれて歩き始めると、小黒が走り出して、先に階段を登って行った。 「でっかーい!」 小黒が両手を広げて、人の間を抜けて走り回る。私たちはゆっくりと上に上がって、そこからの景色を眺めた。少し高くなった視界に、広場に所狭しと建てられた氷像が映りこむ。 「素敵だなぁ。童話の世界みたい」 「ふふ」 わくわくしながら景色を眺めていると、无限大人は景色ではなくこちらをじっと見ていることに気付いた。 「何見てるんですか」 「輝いた目をしていると思って」 「なっ……こ、子供っぽいって思ってます?」 笑ってそう言われて、むっとする。そんなに面白そうに眺めなくてもいいと思う。 「まさか。でも、少女らしいとは思うかな。純粋でかわいらしい」 「えっ……!」 にこにこされてしまって、否定できなくなる。私は小黒みたいに子供でも純粋でもないのに。无限大人の目にはそう映っているんだろうか。 「寒さも忘れて、景色に夢中だ」 「うう、だって、こんなに綺麗だと思わなかったから……」 「私までは忘れてほしくないな」 「忘れませんよ!」 からかう口調で付け足されて、むきになって否定する。 「无限大人と見られるから、こんなに綺麗に感じるんですから」 自分で言って、頬が熱くなった。こんなに冷たい世界にいて、自分の身体からちゃんと熱が発せられるのがなんだか不思議だった。 无限大人はちょっと目を見開いてから、嬉しそうに目を細めた。 「私も、君と見られてよかったよ」 「もう」 无限大人の腕をちょっと押して、背を向けて歩き出す。小黒は別の氷像に向かっているところだった。 「ほら、小黒に置いてかれちゃいますよ」 「はは」 无限大人は小走りな私のあとをゆっくりとついてくる。小黒が私たちを振り返って、早く、と手を振った。 氷像はとても綺麗だったけれど、やっぱり寒さが身に染みて、早めに帰ることになった。またロープウェイに乗って、太陽島を後にして、ホテルに向かう。 ホテルの部屋は暖められていたけれど、思ったよりも身体が冷えていて、なかなか温まらなかった。 「風呂で温まってきなさい」 「そうします……」 「小黒も冷えているだろう。一緒に入りなさい」 「じゃあ師父も一緒に入ろう! ここのお風呂大きかったよ」 「えっ!」 小黒が屈託なくそう言うので、お風呂に向かおうとしていた足が止まった。 「私は後で入るよ」 「でも、師父も寒かったでしょ?」 「小黒」 无限大人は改まった口調で小黒に語り掛けた。 「大人の男女は、一緒に風呂に入らないものなんだ」 「そうなの? なんで?」 「慎みというものだよ」 「なにそれ?」 端的に説明しすぎて、小黒はよくわからない、と眉を寄せて首を傾げる。 「ぼくは男だけど、小香とお風呂入るよ」 「お前はまだ子供だからだ」 「大人になったら一緒にお風呂入っちゃだめなの?」 「そうだ」 「どうして?」 性の概念が薄い妖精には理解が難しいだろう。无限大人は落ち着いた声で続けた。 「男と女では身体の作りが違う。それは大人になるとより顕著になる。それを、晒し合うことはしないんだ」 「ふうん……?」 「小香が凍えてしまうよ。早く入ってきなさい。詳しいことはまた今度だ。長くなるからな」 「あっ、そうだった。ちゃんとあとで教えてね!」 どきどきしながら聞いていたけれど、无限大人がお風呂を促してくれてありがたかった。小黒の情緒教育はこれからだ。 ← | → |