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温泉の近くにあったカフェでご飯を食べることにした。 「うーん、和風パスタにしようかな」 「私も同じものにしよう」 店内は人が少なく、静かだった。先にアイスコーヒーが運ばれてきた。 「短い時間で、少し急ぎ足になってしまったが……楽しめたかな」 「はい! とても楽しかったです。温泉は気持ちよかったし、芦ノ湖もきれいだったし」 「私も、楽しめたし、リラックスできたよ」 无限大人はコーヒーを一口飲んで、にこりとする。 「よかった! でもやっぱり、天気が晴れなかったのは残念だったなあ……」 青空で見る芦ノ湖はきっともっと綺麗だったろう。そう想像するけれど、无限大人は笑顔を崩さない。 「君と一緒だから、どんな天気でもかまわなかったな」 「えっ……、そ、それは関係ないでしょう。私だって、无限大人が一緒ならどこだって楽しいですけど!」 「ふふ」 无限大人が楽しそうにしてくれていたから、天気が悪くてもそこまで残念に思わずにすんだのは確かだけれど。 「君と二人で、日本に来られてよかった。なんだかこちらの空気は柔らかくて、優しい気がするよ」 「そうでしょうか……? でも確かに、大陸とは空気が違う気がしますね」 うまく言葉で表現できないけれど、同じ山でもどこかが違う。向こうはもっと雄大で、峻厳だ。 「君の雰囲気に包まれている気がして、穏やかに過ごせた」 「そう、なんですか? よくわからないですけど……ゆっくりできたならよかったです」 そのとき、パスタが運ばれてきて、さっそく食べ始める。 「ん、美味しい」 「美味いな」 食後には二人ともあんみつを頼んだ。フルーツとあんことアイスが綺麗に盛り付けられている。 「ふふ、美味しそう!」 「和風のパフェか」 无限大人も興味津々にあんみつを一口掬い、ぱくりと食べて満足そうにひとつ頷いた。 食べ終わってカフェを後にし、駅前に戻る。あとはお土産を買って帰るだけだ。 「小黒と、羅さんちと、職場と、それから……」 買う個数を数えながら、何かちょうどいいものがあるかと店先を吟味する。 「无限大人も、執行人の皆さんに買わないんですか?」 「そうだな……」 无限大人は眉間に皺を寄せて、ずらっと並んだお土産をじっと見つめた。 「おまんじゅうもいいけど、賞味期限が短いなあ」 「日持ちするものにしないとな」 「うーん、あ、小黒にはこれはどうですか?」 何件かお店を回って、必要な分のお土産を買い、いよいよ帰る時間になってしまった。 「あっという間でしたね」 「次はもう少しゆっくりしたいな」 改札を抜けて、ホームで電車を待ちながら、名残惜しく箱根の山を見る。 「ありがとうございました。旅行、来れて本当によかったです」 「日本では、君には新鮮味がなかったかもしれないが……ありがとう、ここを選んでくれて」 「いえ! へんに緊張せずに、羽を伸ばせましたから。まあ、ハワイとかも行ってみたいですけどね」 「ははは。いつか、行こうか」 「はい。いろんなところに行きたいです」 「そうだな。行こう。いろいろな場所に」 大陸だけでもすごく広くて、まだまだ行っていない場所はたくさんある。さらに、海外までとなると、本当に一生かかっても回りきれないくらいだ。でも、无限大人と、いろんなところに行きたい。いろんなものを見て、いろんなものを食べたい。これから、私たちは一緒に生きていくんだ。改めてそう、実感する。 「无限大人、大好きです」 「好きだよ、小香」 目を見つめ合って、微笑み合う。帰りの電車がホームに滑り込んできて、扉が開いた。 ← | → |