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「今度、旅行に行かないか」 无限大人が改まって言うので、いいですね、と答える前に読んでいた本から顔を上げて小黒が答えた。 「ぼくはいいや。二人で行ってきなよ」 「えっ!?」 あっさりとした言い方に驚いて、思わず小黒の顔を見つめる。いままでだったら、耳をぴんと立てて、満面の笑みでどこに行く!? と真っ先に飛びついていたのに。 小黒は目を丸くしている私の顔を見て笑った。 「小白のお父さんとお母さん、夫婦で旅行行ってたよ。二人は、まだ二人で行ったことないでしょ?」 「そう、だけど」 私はおろおろして无限大人にちらちらと視線を向ける。どうも小黒は遠慮してるということもなく、本心からそう言ってくれているらしい。 「ぼくなら大丈夫だよ。小白のところに泊まるから」 「でも……寂しいな……」 いつも三人で、いろんなところに行って、楽しんできた。小黒がいてくれたから、笑顔が絶えなかった。素直に残念なことを伝えると、小黒は仕方ないなと言うように笑った。 「師父と二人じゃいやなの?」 「いやってことはないよ! 嬉しいよ!」 いじわるな言い方に、視界の端で无限大人がショックを受けた顔をしたので慌てて否定する。 「でも、ほんとに来ないの……?」 諦めきれなくて、もう一度確認する。小黒はうん、と揺るがず答えた。 「そっか……」 「二人で楽しんできてよ。たっぷりいちゃいちゃしてさ」 「ちょっ、どこでそんな言葉覚えたの!」 「山新が言ってた! 二人じゃないといちゃいちゃできないんでしょ?」 「しゃ、山新ちゃんっ……!」 ませた子だとは思っていたけれど、小黒に何を教えているのか心配になってきてしまった。かくいう小黒はいちゃいちゃという言葉が具体的にどういうことなのかはあまりわからないまま、教えられたとおりに口にしているだけのようだ。 「じゃあ、今回は二人で行きますか……?」 渋々納得する方向に傾きながら、无限大人に確認する。无限大人は微笑んで頷いた。 「そうだな。今回は。小黒、次回は一緒に行こう」 「うん。いいよ」 そう答える小黒はやっぱり落ち着いていて、成長していることを感じた。いつまでも、无限大人のそばにいたがっていた小さな子供のままではないんだ。 「小香、どこか行きたいところはある?」 「そうですねえ……」 「いわゆる、新婚旅行になるが」 「しっ!?」 さらっととんでもないことを言われてびくりと肩が揺れた。いやでも確かに、結婚式をしたあとの旅行なのだから、そう呼んでもおかしくはない、けれど……!! 无限大人と、新婚旅行。蜜月。ハネムーン……。 「日本だと、どういうところに行くの?」 言葉の響きだけでふにゃふにゃになっている私に、无限大人が訊ねる。 「そうですね……ハワイとかパリかな……? 国内だと沖縄とか、京都とか。箱根で温泉巡りとか……」 「温泉か。いいな」 「中国だとどういうところに行くんですか?」 「国内に行くことが多いかな。北京、上海はやはり人気だよ」 「そうなんですね。西の方にあまり行ったことないから、西も行ってみたいな」 話しているうちに、すっかりその気になってきた。无限大人と、二人きりで、旅行する。とても心躍る計画だ。 「私はまた日本に行きたいな」 「あはは。気に入ってもらえたなら嬉しいです」 「いっそ日本と中国、両方行こうか」 「そんなにお休み取れないでしょう」 一週間も无限大人を独り占めするのはさすがに気が引ける。館のみんなも困ってしまうだろう。无限大人はだめか、と残念そうに呟いた。 「また、いろいろ調べて考えておこうか」 「はい!」 楽しげに話す私たちを、小黒は本の影から眺めてこっそり笑っていた。 无限大人と行きたいところはたくさんある。じっくり考えて、たっぷり悩まなくちゃ。 ← | → |