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「少し出かけないか」 小黒が小白ちゃんのところへ遊びに行っている間、二人で家じゅうを掃除してまったりしていたところ、无限大人が提案してきた。 「買い物ですか?」 「いや。デートとして」 「!」 未だに、デートと言われるとどきっとしてしまう。きっとときめく気持ちはずっと変わらないと思う。 「行きたいです……!」 満面の笑みで片手を上げて全身で賛成すると、无限大人は目元を和ませた。 「では、支度をしておいで」 「はいっ!」 急いで部屋に戻ろうとしたら、止められた。 「スカートじゃなく、ズボンの方がいい」 「? わかりました」 言われたとおりに服を選び、化粧をして、无限大人の元へ戻る。 「お待たせしました!」 「早かったね。では行こうか」 无限大人について玄関を出ると、見慣れない赤いバイクが置かれていた。 「わ、かわいい! 買ったんですか?」 「前にね。君に紹介する機会がなかった」 「あ、そういえば小黒に聞いたことがあるかも」 確か、バイクの免許は持っているけれど、車の免許は持っていないとかそんな話だった。 「今日はこれに乗って街を走らないか」 「はい!」 それでズボンがいいって言っていたんだ。理由がわかって、わくわくする。バイクの二人乗りは初めてだ。 「ヘルメットを被って。被り方はわかる?」 「はい」 顎の下でぎゅ、と力を込めて紐を締める。无限大人が確認して、さらにきゅっと締めてくれた。おかげでヘルメットはぐらぐらせず、頭にぴったりとはまった。 「これでよし」 无限大人はバイクに跨り、私に後ろに乗るよう促す。 「どうぞ」 「お邪魔します……!」 謎の掛け声をかけつつ、无限大人の腰の辺りを掴んで、バイクに跨がる。そのままでは落ちてしまう気がして、无限大人にぴったりと張り付いた。 「怖い?」 「ち、ちょっと……初めて乗るので」 「安全運転でいくよ」 「お願いします……!」 无限大人はエンジンを掛ける。車体が振動し始め、がくん、と前に引っ張られたと思ったらゆっくりと走り出した。 「わっ……!」 後ろに倒れそうで、无限大人の腰に回した腕に力を込める。カーブで身体が横に僅かに倒れ、びくっとした。しばらく走っているうちに、无限大人が気をつけながら運転してくれているおかげか、だんだん慣れてきて、肌に受ける風を気持ちよく感じるようになってきた。 「気持ちいいですね!」 「そうだろう」 无限大人の背中から顔を出して、前方を見る。景色がどんどん流れていって、見慣れた街があっという間に遠ざかって行った。まだこの辺りには来たことがない。 「どこに行くんですか?」 「いいところだよ」 无限大人は笑って教えてくれなかった。どこに向かっているんだろう。どこかの食堂かな? 行先を想像して楽しくなった。 夕方が近く、空がだんだん茜色に染まり始める。今私が住んでいる街の姿を覚えようと、風に負けずに目を開いた。 「ここだ」 无限大人は街が見下ろせる高いところにあるちょっとした広場でバイクを止めた。 「景色のいいところですね」 「もう少し待って」 眼下に広がる街を見渡していると、无限大人がそう言うので、不思議に思っていると、やがて太陽がゆっくりと降りてきて、目の前の家並みに赤い光を投げかけた。家々の屋根は眩しく輝き、後ろには黒々とした影を落とす。感嘆の溜息が漏れた。 「綺麗ですね……」 「以前通りがかったとき、きっと夕日が綺麗に見られるだろうと思ったんだ。そうしたら、君と見たくなった。思った以上だったな」 无限大人は景色に見入る私の肩に手を起き、一緒に夕日に包まれる街を眺めた。美しいものを共有したいと思ってくれることがとても嬉しかった。 「私も、一緒に見られて嬉しいです」 街が赤く彩られた時間は短く、太陽はさらに傾いて、薄暗い影の中に街は落ちていった。 一瞬の光景を、私はきっと、ずっと忘れないだろう。 ← | → |