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「香さん、ご結婚おめでとうございます!」 「おめでとうございます」 小白ちゃんと山新ちゃんは、丁寧にお祝いしてくれた。山新ちゃんはもともと小白ちゃんのお友達で、小白ちゃんを通じて小黒とも友達になったそうだ。しかも、山新ちゃんは小黒が妖精であることを知っていて、受け入れてくれているとのこと。今日は休日だ。小黒が二人をうちに招きたいというので、遊びに来てもらった。 「ありがとうございます。山新ちゃん、お話は小黒からいろいろ聞いてたの。会えてうれしいな。想像通りの可愛い子だね」 「小黒くんにはいつもお世話になってます」 山新ちゃんはしっかりしていて大人っぽい子だ。天真爛漫な小白ちゃんと、うまくバランスが取れていそうだ。ソファに座る三人にオレンジジュースを用意する。すぐに遊ぶと思っていたけれど、背負ってきたリュックからノートを取り出し、先に宿題をやり始めた。 「じゃあ小黒、私は部屋にいるから、何かあったら呼んでね」 「うん」 部屋に向かう途中、小黒が小白ちゃんに質問をする声が聞こえた。それに小白ちゃんが答える。 「ここはどうすればいいの?」 「あのね、ここはね、こつがあるんだよ。こうしてね」 声を聞いていると、勉強するのも楽しんでいるようだった。微笑ましいやりとりに頬を緩ませながら、部屋に戻った。 二時ごろになって、お菓子を作ろうとキッチンに向かう。三人はまだ宿題をしていたけれど、何かを書いている時間より、おしゃべりをしている時間の方が長いようだ。 おしゃべりを聞きながら、材料を用意する。今日はさくさくしたクッキー、桃酥を作ろう。 オーブンを暖めて、胡桃を焼く。冷ましてから、細かく砕く。ボウルに油、卵、砂糖を入れて、泡立て器でよく混ぜる。そこに小麦粉と重曹を振るい入れて、砕いた胡桃を加えてヘラで混ぜる。 生地がまとまったら、捏ねて、ちぎってボール型に丸める。またオーブンを温めておいて、ボール型に丸めた生地の上に胡麻をまぶし、潰す。縁がひび割れた形になるのがいいみたいだ。あとは焼くだけだ。 焼いている間手があくので、子供たちの様子を見に行ってみる。 「なんだかいい匂いがしますね!」 小白ちゃんがキッチンの方を見て、うきうきしたような笑みを浮かべる。 「今、桃酥を焼いているから。できたら休憩にしましょう」 「やった! じゃあそれまでにこれ終わらせちゃおう!」 小黒はやる気が復活した様子でまたノートに覆いかぶさるようにして書き始めた。 「私終わったー」 山新ちゃんが最初に宿題を終わらせて、机に両肘をついて小黒と小白ちゃんの様子を眺める姿勢を取った。 「小黒、わからないとこあったら教えるよ」 「今は大丈夫」 小黒は真剣な様子でノートと教科書を交互に見ている。 「私も終わった!」 続いて、小白ちゃんが鉛筆を置いて両手を上げた。 「小黒、がんばって!」 「うん」 そして、小黒が頑張っている様子を見守っている。二人の視線を受けながら必死に鉛筆を動かす小黒の横で、オーブンが軽快な音を立てた。 「あ、焼けた」 私は立ち上がって、オーブンを開け、焼き加減を確認する。 「できたー! おいしそー!」 ぴったりのタイミングで小黒が叫んだ。宿題が終わったのと同時に甘い香りが鼻をくすぐって、食欲をそそられたみたいだ。 「みんなお疲れ様! 休憩しよっか」 「はーい!」 三人はテーブルの上を片付け、小黒が布巾できれいにしてくれる。桃酥をお皿に移して、お茶を淹れた。そのとき、玄関が開く音がして、无限大人が帰ってきた。 「お帰りなさい」 「ただいま。いい匂いがするな」 「今ちょうど桃酥が焼けたところですよ」 「……私も食べたい」 子供たちに振る舞うように焼いたことは知っているが遠慮できない、というような表情に、笑ってしまう。 「たくさん焼いてますから。一緒に食べましょう」 「うん。あと、ドーナツも買ってきたんだ」 「わ、ありがとうございます」 无限大人は満面の笑みでドーナツの箱をテーブルの上に置いた。 「やっぱり、奥さんの手作りお菓子は見逃せないんですね」 山新ちゃんがにやりとしてそんなことを言うので、恥ずかしくなってしまう。无限大人は気にした素振りもなくソファに座った。私もその隣に座る。 「小黒に聞いてるけど、本当に仲がいいんですね!」 小白ちゃんに屈託なくそう言われて、笑うしかなかった。 「いつもこの調子だからね、この二人」 小黒はクールに言いながら桃酥に手を伸ばした。 ← | → |