47.帰宅後

 湯船に首まで浸かって、深く息を吐いた。疲れた体にお湯の温かさが染み渡る。浴槽、やっぱりつけてもらってよかった。式の間は緊張感と幸福感で薄れていた疲れが、今じわじわと身体中に響いてきている。慣れない服を来て、ほとんど座らず参列者を持て成していたので、さすがに疲れた。でも、嬉しいことばかりだったから、この疲れも式をした実感になるからいやじゃなかった。
 いつもよりじっくり湯船で温まって、お風呂を上がる。リビングでは、无限大人と小黒が遊んでいた。小黒はまだ元気いっぱいだ。
「師父、小香お風呂上がったよ!」
「うん。疲れは取れた?」
「はい。気持ちよかったです!」
 また濡れた髪を无限大人に乾かしてもらって、私もソファに座る。
小黒はそんな私の顔をしげしげと眺めた。
「へへ、いつもの小香だ!」
 そして、にへ、と笑う。
「結婚式の間、ずっと違う人みたいだったんだもん」
「あはは。そうだよね。化粧も衣装も、普段しないものだったもんね」
「あのね、すごく綺麗だったよ!」
「ありがとう」
「うん。言葉では言い尽くせないほどだった」
 无限大人まで深く頷くから、照れてしまう。
「師父もね、かっこよかった!」
「そう! すごくかっこよかったです!」
 小黒の言葉に心の底から同意する。
「あんなにかっこかったら、大好きになっちゃいます……」
「あはは! 小香もう師父のこと大好きじゃん!」
 思わず変なことを口走ったら小黒に笑われてしまった。でも本当に、惚れ直すというか、さらに惚れてしまった。
「でも、いろんな人が来てたね。みんな、二人のことお祝いしてた」
「招待はしたが、本当に来てくれるとは思わなかったな」
 无限大人は淡々とした言い方をするけれど、その笑みは嬉しそうだった。私も友達を呼びたかったけれど、今回は妖精たちがメインの招待客だったから、妖精を知らない人たちを呼ぶことはできなかった。結婚したことは伝えてあって、みんなお祝いをしてくれたけれど、无限大人がどんな人かまでは知らない。小黒という養子をとったことを話したらさすがに驚かれてしまった。
「二人とも、夫婦になれてよかったね」
 にこにことして、小黒は改めてお祝いしてくれた。小黒にお祝いしてもらえたことが何よりうれしい。
「今度は赤ちゃん作るんでしょ?」
「えっ!」
 小黒にまで屈託なく言われてしまって、ひっと息を飲む。
「そそそ、それは」
「おじいちゃんがね、ヒマゴの顔が見られるのが楽しみだって言ってた」
 ひ孫というものがなんだかよくわからないまでも、おじいちゃんが楽しみにしていることはよくわかったらしく、小黒も嬉しそうに言う。今日はずっと家族と一緒にいてもらったけれど、もうすっかり馴染んでいたようで、それも嬉しかった。
「まあ……おじいちゃんが元気なうちに……ね」
 今のところ、おじいちゃんもおばあちゃんも元気にしてくれているけれど、高齢なことには変わりない。元気でいてくれるうちに孝行したい。
「明日は小白に今日の結婚式すごくよかったて教えてあげよっと」
 小黒はわくわくした様子でそう言って、ソファからぴょんと飛び降りた。
「じゃあぼく、もう寝るね」
「うん。おやすみ、小黒」
「おやすみ」
「師父、小香、おやすみ!」
 小学校に入ってから、明日の準備をして、自発的に寝に行くようになった。少しずつ、小黒は変わっている。小黒の部屋のドアが閉まる音がして、お茶でも飲もうかと思ったら腕が伸びてきて抱きすくめられていた。
「……大人?」
「いい一日だった」
「……そうですね」
 こんなにたくさんの人に祝福してもらえる日は、そうそうない。无限大人は私の身体を腕の中に入れ、髪に顔を寄せて、匂いを嗅ぐようにする。身体の力を抜いて、腕に全身を預けた。
「君が私の妻であることを、知ってもらえること、認めてもらえることは……こんなに、嬉しいことなのだと、実感したよ」
「……はい」
 私も、无限大人の妻として、妖精たちに受け入れてもらえたことがとても嬉しかった。式の前は不安もあったけれど、みんなの笑顔がそれを吹き飛ばしてくれた。
「无限大人の妻になれて、幸せです」
「私を選んでくれてありがとう。私は、とても幸せ者だ」
 涙が零れそうになるまえに、目を閉じて、唇を重ねた。この人に愛されている。この人を愛している。その奇跡に胸が満たされた。

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