46.結婚式 六

 最後に、家族のところへ戻っていった。小黒が椅子から飛び降りて、駆け寄ってきた。
「師父、小香! 結婚、おめでとう!」
 大きな笑顔を浮かべて、小黒が言うのに合わせて、みんなも声を揃えておめでとう、と言ってくれた。
「結婚式ってよくわからなかったけど、でも、二人ともすごく幸せそうで、みんなも楽しそうだから、すごく、よかった!」
「ありがとう、小黒。お祝いしてくれてすごく嬉しいよ」
「へへへ。ご飯もすっごく美味しかった!」
「いっぱい食べられた?」
「うん!」
 小黒がとても楽しそうにしてくれていて、胸がいっぱいになる。小黒に祝ってもらえることが、本当に嬉しかった。
「みんなも、こんなに遠くまで来てくれてありがとう」
 家族に改めてお礼を伝える。急なことだったのに、全員そろってくれたことにとても感謝している。
「お前の結婚式なんだ。来るのは当然だよ」
 おじいちゃんがそう言って、みんなが笑顔で頷いた。
「おばあちゃん、着物、ありがとう。すごく素敵」
「よく似合っているよ。持ってきてよかったねぇ」
「本当に。こんなに立派になったのねぇ」
 おばあちゃんの隣で、お母さんが頬に手を当て、しみじみと言う。隣でお父さんがまた目に涙を溜めていた。
「本当に、綺麗で……っ、うう、綺麗だよ、香……っ」
「お父さん、せっかく泣き止んだと思ったのに」
 腕で目元を拭うお父さんを見て、妹が苦笑する。
「でも、お姉ちゃんほんとに綺麗だよ! 无限大人とすごくお似合い!」
 もう一人の妹が私たちを見て、手を合わせて褒めてくれた。无限大人の隣に立つのに相応しいかどうかと言われると自信がないけれど、そう言ってもらえてとても嬉しくなってしまった。
「无限大人、この子のこと、改めてどうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 お母さんが頭を下げるのに合わせてみんなに一斉に頭を下げられて、无限大人はちょっと困惑してから、すぐに背筋を正して、頭を下げ返した。
「みなさんの大切な娘さんを、私にくださり感謝します。必ず幸せにします」
 无限大人は改まった口調でそう告げる。今日は何度もこんな言葉を聞かせてもらえて、何度も感極まってしまう。もう、こんなに幸せにしてもらってる。
「お父さん、お母さん。みんな。みんなのお陰で、私は无限大人に出会えました。今、とても幸せです。ありがとう!」
 ずっと思っていたことを、ちゃんと言葉にして伝える。私がいままで生きてきた道のりが、今日この日に続いていたんだ。お父さんがまた声を上げて泣き出した。全員に挨拶を終えて、参列者もだいぶ帰って行った。そろそろ式もお開きだ。私と无限大人は再度舞台に戻り、残っている人に向き直った。
「今日は、招待に応じ、おいでいただきありがとうございます。私たち夫婦の門出をお祝いいただいたこと、心から感謝いたします」
「たくさんの方にお祝いいただいてとても嬉しかったです。私たち二人で、暖かい家庭を築いていきます」
 二人で最後の挨拶をして、会場を退場した。余韻に浸る間もなく化粧室に戻り、衣装を脱ぐ。化粧を落として、髪を下ろして、ようやく身体が軽くなった。ふわふわした気持ちで部屋を出ると、先に着替え終わった无限大人が外で待ってくれていた。
「お疲れ様」
「无限大人も」
 お疲れ様、と言う前に腕を引かれて、唇を塞がれた。人が来ちゃうかも、と思ったけれど振り払えなかった。だってずっと、触れたかったから。しばらくお互いのぬくもりを感じてから、そっと身体を離す。
「帰ろうか。私たちの家に」
「はい」
 无限大人に手を引かれ、スタッフさんたちにお礼を言って、外に出る。外では家族や館の人たちが待っていた。これから日本に帰る家族にもう一度お礼とお別れを言って、館の人たちにも伝えて、小黒を連れて、家に帰った。長い一日がとうとう終わってしまった。でも、私たちの生活はこれから始まるんだ。希望に溢れた明日を前に、幸せに満ちて道を歩いた。

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