45.結婚式 五

 館長たちが集まる卓へ挨拶をしてから、龍遊や他の館の執行人が集まっている卓に回ってきた。
「小香〜!! 本当におめでとう!!」
 若水姐姐が椅子からぴょんと立ち上がって、私の両手を掴み、尻尾を大きく振りながらお祝いをしてくれた。
「すっごくきれいね! 私も結婚式やってみたくなっちゃった!」
 相手はいないけど! と若水姐姐はあっけらかんと笑う。
「无限大人、改めて、おめでとうございます」
 冠萱さんや逸風くん、他の執行人たちが口々にお祝いをくれる。ふと、見慣れない妖精が立ち上がり、タブレットを持って近づいてきた。緑の髪に、緑の肌をしている。
「老君からも祝したいそうだ」
 タブレットはビデオ通話中になっていて、明るい声が聞こえてきた。
『无限! 結婚おめでとう! ははは、まさかこんなお祝いを言える日が来るとは思わなかったよ。長く生きていると何が起こるかわからないものだな!』
 とても陽気な声なので、抱いていた老君のイメージと違って面食らった。
『小香。无限のそばにいてくれてありがとう。これからも彼を支えてやって欲しい』
「は……はい! もちろんです!」
 老君に直接話しかけられるとは思わず、肩を竦めて返事をする。老君はまた笑った。
『二人とも、おめでとう! いい式だったよ。リモートで楽しませてもらった。末永く、お幸せに』
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
 无限大人と二人でお礼を述べる。本当に、无限大人の人脈はすごい。まさか、老君とお話できる日が来るなんて思いもしなかった。
『諦聽、料理を持って帰るのを忘れないでくれよ』
「はいはい」
 話が終わって席に戻る途中、そんな会話が聞こえてきた。老君、どんな人なんだろう。思ってたより、親しみやすそうな雰囲気だった。
「老君も、せっかくの无限の結婚式なんだから、直接くればいいのにね」
 若水姐姐は頬に手を当て、不思議そうにする。
「彼自身が決めたことを守っているんだ」
 无限大人は気にしていない、というようにそう答えた。
「一緒に住んで、結婚式して……あとは子供作るんだっけ?」
 指を折りながら唐突に若水姐姐にそんなことを言われたので、動揺してしまった。
「そうだな。もう少し落ち着いてからだが」
 无限大人も当然のように答えるので、口を挟むタイミングを失ってしまう。確かに、そうなんだけれど。そのつもりでは、あるんだけれど……!
「无限大人のお子様ですか。強い子になりそうです」
 冠萱さんまで、楽しみというように話に加わってくる。
「子供って、親に似るんですよね? どんな子か、想像つかないなあ……」
 逸風くんも私と无限大人の顔を見比べて、生まれてくる子に想いを馳せている。みなさん、気が早いと思う。
「きっと、可愛い子だ」
 无限大人は私の手をそっと握って、私の顔を見て微笑んだ。その深い色の瞳に胸がきゅんと高鳴って、わたわたしていた心がすっと落ち着いてしまう。
「无限大人に似た子が欲しいです……」
 そして思わず、胸に秘めていた願望を口にしてしまった。无限大人は笑みを深めた。
「私は、君に似た子が欲しいな」
「じゃあ、二人作るの?」
 若水姐姐が言葉を重ねてくると、逸風くんが疑問を零した。
「子供って何人作れるんですか?」
「十人くらい子を持つ人もいるな」
「へえー」
「十人は無理ですよ!?」
 无限大人の回答に素直に感心する妖精たちに、慌ててそれは当たり前じゃないことを伝える。うちも兄弟は多い方だけれど、十人なんて絶対大変だ。
「无限大人、そんなに欲しいんですか……?」
 つい不安になって无限大人の顔を窺う。もし、たくさん欲しいなら、无限大人が望むなら……頑張れるかもしれないけれど……。
「君との子だからな。授かれるものなら……。だが、君に無理をさせるつもりもないよ」
 无限大人は私を安心させるようにちょっと頭を撫でてくれた。
「いいなあ。幸せいっぱいね!」
 卓に両肘をついて、その上に顎を乗せ、楽しそうに笑いながら若水姐姐はそう言ってくれる。无限大人と顔を見合わせると、自然と笑みが零れた。
「大好きです。无限大人」
 人前であることも忘れて、思わず想いが口から漏れた。きゃあと若水姐姐が楽しそうな声を上げるので、あ、と気付いたけれどもう遅かった。
「なんだか当てられちゃいましたね」
 逸風くんも頬を赤くしている。ちょっと浮かれすぎていたかもしれない。无限大人は何も言わない、と思っていたらふいに腰を屈めて顔を近づけてくるものだから、驚いて固まってしまったけれど、そのまま少しそれて私の耳元に口を近づけてきた。
「……そんなことを言わないでくれ。ここでは、吻ができないのに」
「……ッ!!」
 ぼっと火が付くというのはこういうことかというくらい身体が熱くなって真っ赤になってしまった。
「なあに、内緒話〜?」
 そんな私たちを、若水姐姐がにやにやしながら眺めてくる。私はもう恥ずかしさでいっぱいで顔を手のひらで覆うしかなかった。
「大丈夫ですか、香さん」
「大人、あまり小香をからかってあげないでくださいよ」
 逸風くんに心配され、冠萱さんが无限大人を窘める。无限大人は心外だと真顔になった。
「では、引き続き楽しんでいってくれ」
「はーい!」
 そろそろ次の卓に行かないといけない。无限大人は会話を切り上げて、正気に戻れていない私を連れて若水姐姐たちの元を離れた。

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