38.修行四、魚

「今日は豆鼓鮮魚を作りましょうか」
 久しぶりに无限大人と料理をすることになった。キッチンが大きくなってから、初めて一緒に並ぶ。引っ越すときに、少し料理道具も買い足していた。
「鮎を豆鼓で味付けした料理だな」
「はい。今回、无限大人には一通りやってもらいます」
「よし。わかった」
 无限大人の分もエプロンを買ったので、二人でエプロンをつけて準備をする。腕まくりをして、緑のエプロンを着ける姿はなんだか新鮮で、ぐっときてしまった。
「ええと、まずは鮎を片栗粉で洗います」
 ボールに鮎を入れて、片栗粉をまぶす。无限大人に洗ってもらっている間に調味料を混ぜ合わせる。片栗粉を落とした鮎をそこに浸ける。
「この間に、別のおかず作りましょう」
 簡単に豚肉の甘酢炒めと、ほうれん草のにんにく炒めを作る。野菜を炒めるのは、无限大人もだいぶ慣れてきたみたいだ。でも、まだ炒め加減を見て伝える必要がある。
「二品できたので、鮎に戻りましょう」
 フライパンに豆鼓とニンニクと輪切り唐辛子を入れて、サラダ油で炒めてもらう。その隣で、深めの鍋に油を入れ、加熱した。香りがしてきたのでフライパンの火を止めてもらって、また片栗粉をまぶした鮎をしっかり油通ししてもらう。油から上げた鮎を豆鼓に漬けて、完成だ。
「できましたね!」
「うん。いい香りだ」
「だいぶ手慣れてきたんじゃないですか?」
「ちゃんと一人でも練習は続けているからな」
「そうなんですね。さすがです」
 料理にも真面目に取り組む姿勢が眩しくて、もっと好きになってしまう。けれど、无限大人は眉を顰めて首を傾げる。
「だが、食べてみるとどうも……。なかなかうまくいかないな。君がいないと」
「ふふ。練習あるのみですよ。大人なら、絶対できるようになりますから!」
「ああ。頑張るよ」
 料理をお皿に盛りつけて、リビングのテーブルへ運ぶ。小黒の部屋に行って、ドアをノックして声を掛けた。
「小黒、ご飯できたよ」
「いまいく!」
 そう答えが返ってきて、しばらくするとドアから小黒が飛び出してきた。ご飯の時間まで、勉強をしていた。学校へ行き始めてから、小黒はますます勉強に集中するようになった。実際に授業で勉強を教えられ、他の子供たちも勉強している姿を見て、とても刺激を受けたみたいだ。
 小黒が椅子に座り、无限大人が料理を並べ終えて、皆でテーブルを囲んで、夕食が始まった。
「小黒、今日はどんなことしたの?」
「勉強……」
「ははは。それはそうだろう。大変そうだな」
 うんざりしたように漠然としたことを答える小黒に、无限大人は肩を揺らす。小黒は首を振り、お肉を口に入れながら話した。
「数学とか、科学とか、ちんぷんかんぷんだよ」
「本当なら、一年生から順にやるところを、突然五年生からだもんね……」
 それに加えて、小黒は文字もまだほとんど読めないから、授業を理解するところまで行くのは時間が掛かるんじゃないかと思う。
「みんなに追い付くには、並みのやり方ではいけないよ」
「わかってるよ。やるしかないって」
 小黒の表情は、闘争心に溢れている。うんざりしつつも、諦めるようなことはないようだ。
「学校終わった後、小白がいろいろ教えてくれるんだ。だからきっとできるようになるよ」
「いい先生がいていいね」
「うん! あ、でも、体育では褒められたよ!」
「はは。運動でお前に勝てる子はいないだろうな」
「へへん」
 小黒は无限大人に褒められて鼻高々だ。小黒が本気を出したら、小学生どころか並みの大人では絶対に勝てないだろう。まだ、学校の生活に慣れるのに精いっぱいで、新しい友達を作るとか、そういう方向へ気持ちが向くのはまだ先のようだ。まずは慣れることが第一だ。これからも、楽しく通えるといいけれど。小黒は強い子だから、きっと乗り越えていけるだろう。

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