31.引っ越し

 時間はあっという間に過ぎ、引っ越しの日が来た。荷物をトラックに積んでもらい、電車で无限大人、小黒と一緒に引っ越し先の家に向かう。最寄り駅は以前住んでいたところに比べると小さいけれど、ちょっと見たところ必要なものは揃っていそうだ。館が用意してくれた三つの候補の中かから吟味して、内見に行き、三人で決めた家だ。
 見た目は古いけれど、内装は現代風に改築されていた。平屋で、部屋は三つあり、ちゃんと庭もある。私は内見に来て一目でこの家が気に入った。玄関の鍵を无限大人が開け、中に入る。テーブルやベッドやソファにテレビと、家具は一式揃えられていた。今日からここで暮らすんだと思うと楽しみに胸が膨らんだ。
「ぼくの部屋ここだね!」
 リビングの奥にある部屋に小黒は駆け込んでいく。私は二つある水場を確認した。浴槽がないのが残念だけど、仕方ない。无限大人は台所を覗き、窓を開ける。そのうちにトラックが到着して、荷物を運び込んでくれた。ほとんど私の分で、あまり物を増やさないようにしていたから荷ほどきにそれほど時間はかからないだろう。お昼ご飯は外で食べることにした。
「いい雰囲気の街ですね」
「そうだな」
「私、もう気に入っちゃいました」
「ぼくも!」
 街を歩きながら風景を眺めて、感じたことを伝えると、小黒が元気に同意してくれた。
「ねえ、あとで小白をうちに呼んでもいい?」
「まだ片付いてないからなぁ……」
「じゃあ、明日?」
「いいんじゃないか、今日でも」
「そうですね。少しなら」
「やったぁ! 師父、小白に連絡して!」
 无限大人はもう小白ちゃんの連絡先を知っているらしい。小黒にせがまれて、端末を取り出すと電話を掛けた。
「羅さん。无限です、どうも」
 電話口に出たのは大人だったようで、无限大人がかしこまった話し方をするのがおかしかった。
「では、また」
 話はまとまったようで、通話を切ると端末を仕舞いながら小黒に言った。
「ご家族でいらっしゃるそうだよ。引っ越し祝いをしてくださるそうだ」
「ほんと? よかった!」
「ようやく小白ちゃんと会えるんですね」
 小黒の始めてできたお友達だ。どんな子なのかずっと気になっていた。
「小白はすっごくいい子だよ! 小香に紹介してあげるね」
「ありがとう。楽しみだな」
 お昼ご飯を済ませてスーパーに寄って買い物をし、家に帰ると、羅家をお迎えするため、掃除を始めた。小黒も気合を入れて家具を拭いてくれた。なんとか見えるところだけきれいにできたところで、インターホンが鳴った。
「はい! 今行きます!」
 手を拭って、玄関のドアを開ける。
「こんにちは!」
 元気に挨拶をしてくれたのは、桃色の髪の女の子だった。この子が小白ちゃんだ。その後ろに、ご両親がいる。
「こんにちは! まだ片付いていないんですけど、どうぞあがってください」
「お邪魔しまーす」
「あら、立派なお宅ですね!」
 奥さんが部屋を見回し、感嘆した声を上げる。奥さんはフェイスパックをしたままで、服装もパジャマのように見えるけど、たぶん気にしない方がいいんだろう。旦那さんの方は、新聞を読んだままだ。
「小白!」
「小黒!」
 ソファに座っていた小黒は、小白ちゃんの姿を見るなり立ち上がって、駆け寄っていった。
「大きいおうちだね!」
「へへ。小白のうちに近いよね!」
「うん! これならすぐに遊びに来れるね!」
 手をぎゅっと握って、笑顔を向け合う二人の姿が微笑ましい。本当に仲がいいんだな。ソファに掛けてもらって、无限大人がお茶を振る舞ってくれた。羅家と向かい合うように、私たちもソファに座った。

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