27.過保護

 ゲームを終了し、彼女の部屋に戻ってきて、彼女の姿を見てほっとした。我ながら過保護だとは思うが、やはりゲームの中だとしても、彼女に傷ついてほしくない。
 彼女にアイテムの使い方を教え、彼女の方が先に移動したのを確認したあと、合流先の街に伝送したとき、彼女の姿が見えなくて肝が冷えた。少し離れたところにいるかと探したが見当たらない。街の前のこの地点は安全地帯のはずだった。何かあったとは考えにくい。そうなると、別の場所に伝送されてしまったと考えるしかなかった。すぐにチャットを送ったら、届いた返事は途切れていた。返信をできない状態にあると知って、気が気でなくなった。いますぐ彼女の元へ飛んでいきたいのに、彼女の所在地がわからない。彼女の身に危険が迫っているのに、何が起きているかわからず、助けに行けないことに奥歯を噛んだ。あらゆる事態を想定し、切り抜けられるようアイテムを渡してある。中には自動で発動するものもいくつかある。だから、すぐに倒されてしまうことはないはずだと自分に言い聞かせる。こうなったら、彼女にこちらに戻ってきてもらうしかない。一縷の望みをかけて、こちらの座標を伝えた。あとは彼女がアイテムを使う余裕があることを祈るしかない。敵は人間か、モンスターか、一体か、複数か。ずっとそばにいると決めていたのに。
 目の前に彼女が現れて、鼓動が止まった。傷一つない姿にほっとして、声を掛ける前に腕を伸ばし、抱きしめていた。

「お茶、どうぞ」
「ありがとう」
 小香は私の目を見て、にこりと笑う。この笑顔が翳ることはあってはいけない。私の手で守っていきたい。
 今日は、以前よりは落ち着いているように見える。この前は、わかりやすくそわそわしていて、じっと熱っぽい視線で見つめてくるものだから、困ってしまった。それだけ求めてくれているとわかって嬉しくなり、ついそんな姿を眺めてしまった。いますぐ抱きしめたいという欲求を押し隠すのに苦労した。あんなに愛らしい姿を見せられて、押さえられるはずがない。
 一度彼女を抱いたら、いままで触れずにいたのが信じられないほど、より求めてしまうようになった。会えない時間がもどかしい。この半年間、一緒に過ごす時間が少なかった分、今の二人の時間がとても貴重に感じられた。愛おしさが次々に押し寄せてきて、留まるところを知らないようだ。
 二人で静かな食卓を囲み、寝るまでの時間お茶を飲んで語らい、寝所を共にする。彼女と共にいる時間は、気を緩め、彼女に甘え、ただ幸せに浸ることができる。
「大好きです」
 夢見るようなその瞳にただ私だけを映し、彼女は素直に自分の気持ちを何度でも伝えてくれる。そのたびに心が解かされ、愛が深まっていく。手を繋ぎ、指を絡める。彼女の小さな手が、ぎゅ、と力を入れて、握り返してくるのが愛おしい。
「私は、君にもらっている分を返せているだろうか」
 握った手を口元に寄せ、彼女の指に唇で触れる。彼女は目を丸くした後、困ったような笑みを浮かべた。
「そんなの、私の方が、ですよ。こんなにいっぱいもらっちゃって、返しきれないくらいです」
「そうかな。私の方がもらっていると思う」
「もう……。そんなことないです」
 こうして言い合い始めると平行線になる。お互い絶対譲らない。楽しい言い合いだった。
「毎日想いが募っていくよ。言葉でも、態度でも、伝えきれないほどに」
「私も……伝えきれません。大好きで……大好きだから……」
 額を寄せ、笑い合う。いつの間にこんなに、大きく膨らんでしまったものだろう。少しずつ、少しずつ、増えていくばかりで減らないのが不思議なくらいだ。彼女の髪に指を通し、細くて柔らかな髪を指に絡める。シャンプーの香りだろうか、甘い香りがする。
 抱き寄せると、彼女も胸元に顔を寄せてきた。鼻が肌に触れて、少しくすぐったい。腕の中に彼女がいる。すべてを私に預けてくれている。大切で、かけがえのない人。私の腕の中で安心して目を閉じ、安らかな呼吸をする。私は彼女がなんの心配もなく眠れるよう、守り続けていきたい。
 小香。
 愛している。

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