22.ゲームの世界

「无限大人、このアイテムはなんですか?」
 二回目のゲームを開始して、ステータス画面を開きいろいろと確認していると、アイテム欄になんだかいっぱい入っていることに気が付いた。どれもどう使うものなのかよくわからない。
「これは、一分間無敵になる。これは、自動的に反撃する。これは、一回だけ安全な場所に瞬間移動する。これは……」
「え? え?」
 无限大人は、ひとつひとつ丁寧に効果と使い方を教えてくれる。いろいろ聞いていると、とにかくどれも身を守るためのもののようだった。
「……普通、ゲーム開始時点でこんなにアイテムってもらえるものなんですか?」
「私が用意した」
「……ありがとうございます……」
 なんだか、ずるをしているような気持ちになるのだけれど。万が一にも、私が誰かから攻撃されることがないようにという配慮みたい。でも、ゲームなんだから、戦うこともあるんじゃないだろうか。基本的には、逃げることに重きを置いているように見える。いくらリアルといっても、ゲームなのだし、もし倒されても復活できるし……。无限大人、ちょっと心配しすぎじゃないだろうか。そんな気持ちも、嬉しいけれど。とはいえ、今の調子だと多少水を操れるようになっても、戦うなんてところまではいけそうにない。ただやられるだけになる。そうならないようにということなんだろう。うん。
「ここに、他の館の妖精たちや執行人の方も来てるんですよね」
「ああ」
「どの辺りにいるんでしょうね? 会えたら楽しそうです」
「そうだな。まだ、始まったばかりで各自ゲーム内での動き方を覚えているところだろう。もう少しすれば皆慣れてくるだろうから、そのころに」
「はい」
 周囲の森を見渡す。ここには、たくさんのプレイヤーがいる。
「小黒も、どこかで頑張ってるんですよね。どんな任務なんですか?」
「そうだな。かなり難しいよ」
「そうなんですね。クリアできる……んでしょうか」
 もし、クリアできてしまったら、執行人になれるということだ。でも、執行人になるには、小黒はまだ幼い。无限大人も、そう考えていると思う。
「難しいよ」
 无限大人は静かに、けれどはっきりとそう答える。顔を上げ、遠くにいる小黒の方を見つめる。
「達成できるかどうかよりも、私はあの子にここでたくさんのことを学んでほしいんだ。友達と一緒に」
「はい……そうですね。せっかくのゲームなんですから。楽しんでほしいです」
 任務だなんて気負わずに、友達とミッションをクリアする楽しさを感じてほしい。
 今日も无限大人に教えてもらって、水を操る練習をした。昨日とほとんど変わらず進まなかったけれど、いままでやったことのないことだから取り組むだけで楽しい。无限大人に教わったことを一通り実践してから、休憩することにした。
 川には魚がいて、空には鳥が飛んでいる。
「本物の生き物みたいですね」
「本物ではないが、彼らもプレイヤーだよ」
「ええっ!?」
 无限大人にそう言われて、川の中を泳ぐ魚を二度見する。
「通常版では、アバターが選べない。ランダムに姿が決まるんだ。一度死ぬまで、変更はできない」
「なんて……大変なシステムですね……」
 魚になったら、川でずっと泳いでいることになるんだろうか。それはそれで、気持ちよさそうではあるけれど、どうなんだろう。
 たとえ死んでも、次は人間になれるとは限らない。もう一度遊ぼうと思ってくれるだろうか?
「"衆生"だからな。ここでは、すべての生き物の人生を体験できる」
 思っていたよりも壮大な世界に、眩暈がした。

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