![]() |
「今日はここまでにしようか」 「はい。たくさん教えていただきありがとうございました」 丁寧に伝えて、礼をする。无限大人も頭を下げて返してくれた。顔を上げて、目を見合わせて、ふふ、と微笑み合う。 「とっても面白いですね! まだぜんぜんですけど、ちっちゃい水滴は作れました!」 「少しずつレベルを上げていけば、もう少し大きな水滴を操れるようになるよ」 「本当ですか? うれしいな」 霊質を操ることに、密かなあこがれはずっとあった。でも私は普通の人間だから、そういう素質はないと諦めていた。それが叶うことがあるなんて。 「无限大人と、修行……っていったら大げさですけど、そんなことができて、うれしいです」 ほんの少しだけでも、近づけたような気がする。霊質という、彼らにとって身近なものを、私にも触れられるようになった。本当に、僅かなものだけれど。それが嬉しい。彼は目を細めて、微笑した。 ログアウトの仕方を教えてもらって、ゴーグルを外す。元の身体は少し重く感じた。隣で動く気配がして、横を見ると、ゴーグルを外した彼が同じくこちらを見た。目が合って、どきりとする。さっきまでゲームの中で一緒にいたのに、なんだか違う。やっぱり、あれはどんなにリアルでも、ゲームの世界で、現実じゃないんだ。 「无限、大人……」 无限大人は身を起こして、私の上に覆いかぶさるようにして、瞳を覗き込んできた。キスをされるのかと身構えたけれど、そのままじっと私の顔を見つめている。 「……どう、しましたか?」 なんだかその視線が熱くて、どぎまぎしてしまい、言葉がつっかえる。无限大人はそのまま距離を縮めてきて、唇に吸い付いた。 「んっ……」 それは一度では終わらなくて、何度も角度を変えて、熱く、深く、交わった。身体の中で火が灯り、肌がかっと熱くなる。息ができなくて、苦しくて无限大人の服を握り締めた。 「っ……」 「……小香……」 无限大人はそっと唇を離して私の名前を呼んだけれど、その声はいつもと違いどこか余裕がなく、甘く掠れている。そんな声で呼ばれたら。 「すまない。まだ、環境が整っていないからと、耐えていたんだが……」 「環境、ですか?」 无限大人は私の頬を撫で、溶けてしまいそうなほど熱い視線を向けてくる。じりじりと焦がれるようで、勢いを増しそうなそれを、必死に抑えている、という印象。いままでもそれは、何度か見え隠れしていた、情熱の影。 「家を買い、小黒が落ち着いて、君の安全が確保できてから、子供を作るのは、それからだと……」 「……っ」 子供、と聞いて心臓が跳ねる。言葉の続きが早く聞きたくて、こくりとつばを飲み込んだ。无限大人の指が、私の唇をなぞる。 「だが、今、ただ……君を、抱きたい」 灯った火が驚いたように勢いを増して吹き上がった。全身がかっとなって、ばくばくと鼓動が逸る。 「その思いを、止められなくなってしまった」 どうすればいいのかわからない、と欲求を持て余し苦悩している表情があまりにも色っぽくて、もうすべてを投げ出してめちゃくちゃにしてください、となりふり構わずお願いしたくなった。炎の勢いに飲まれて、声が出ない。熱い涙が目尻を零れて行った。 「もちろん、君がいやなら……」 「いいえっ!」 涙を見て尻込みをする无限大人の首に急いで抱き着く。 「いいえ、私、嬉しくて……胸がいっぱいになってしまって……っ」 「……小香」 必死で抱き着く私の背中を、遠慮気味に无限大人は撫でる。それから、そっと抱きしめるように腕を回した。 「いいのか?」 「はい。……抱いて、ください……」 ずっとこのときを夢見ていた。望んでいた。きっといつかは、と想像しては、深く考えないように、目を逸らして、そのときが来るまでは、と保留にしてきた。とうとう、そのときが来たんだ。无限大人はそっと私を起こして、床に座ったまま向かい合う。 「……では、今夜」 「はい」 手を握り合い、見つめ合って、約束の口付けをした。 ← | → |