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「あ! 香さん!」 「はい?」 館を歩いていたら、声を掛けられたので振り返る。聞き覚えのある声だと思ったけれど、そこに立っているのは見知らぬ男の人だった。 「ふふ。驚いてますね。私ですよ。明俊です」 「え? え……明俊さん!?」 彼はにこにこしながら私の反応を伺っていた。明俊さんといえば、人間が好きで、建築が好きで、カエルに似た姿をした妖精だ。でも、今前にいる人は成人男性の姿をしている。 「驚きますよ! えっ、どうしたんですか……!?」 明俊さんと名乗るその人の後ろから、銀色の髪をした少女が現れた。 「彼女のおかげで、ここまで化けられるようになったんです」 「こんにちは、小香」 彼女は垂れ耳をちょこっと揺らして、私に微笑んだ。 「銀桂さん。明俊さんとお知り合いだったんですね」 「私の師傅ですよ」 「そうだったんですか」 そういえば、明俊さんに誰が師匠なのかまでは聞いていなかった。 「私は人形師ですから。最初、相談を受けたときはどうしようと思いましたけれど……」 銀桂さんはかわいらしい声でそんなことを言いながら、背の高い明俊さんを見上げる。カエルの姿のときは、私より背が低かったけれど、今は頭一つ分くらい大きくなっている。銀桂さんは小柄なので、見上げるのがたいへんそうだった。 「私が変化させる分には、半日くらいならもつようになったんですよ」 「ええ、すごい……! よかったですね、明俊さん!」 「はい。きっともうすぐ、外にも出られるんじゃないかって。本当に、銀桂さんはすごい方ですよ。彼女のおかげです」 「ちゃんと、自力で変化できるようになって欲しいんですけどね」 銀桂さんは笑みを浮かべながらちょっと突き放したような話し方をする。明俊さんはもちろん頑張ります、と頭を掻いた。 「衆生の門なら、きっと修行が進みます。期待していますよ」 「はい、師傅!」 「衆生の門……お二人も、プレイするんですか?」 あのゲームは、希望する妖精に配られる予定だ。 「もちろんです。楽しみですね。ゲームって、私したことないんですけど、大丈夫でしょうかね」 「私も、そんなにはしたことないですけど……。どんなかんじなんでしょうね。ロールプレイングゲームに似てるそうですけど」 ひととおり説明は受けたものの、実際にプレイしてみないことには、どんなゲームなのか想像がしにくいものがあった。 「香さんもプレイされるんですか? 无限大人と一緒に」 「そうですね……どうなんでしょう」 无限大人は管理者側として関わっているようなので、通常のプレイはしないようだった。衆生の門は、人間も妖精も一緒にプレイすることができるから、私も参加してもいいんだろうけれど。 「私も……霊質の修行とか、できたりするんでしょうか?」 「適性があれば」 銀桂さんはあくまで微笑みながら、現実的なことを言う。 「しましょうよ! 修行! きっと適性ありますよ!」 明俊さんは力強くすすめてくれた。自分にはそういう才能がないと思っていたけれど、もしかしたら、万が一ということもあるかも……? 家に帰って、夜は久しぶりに无限大人が帰ってきた。二人で夕飯を食べるのは、まだ慣れない。やっぱり、小黒がいないことを意識してしまう。小黒がいないと、とても静かだ。 「无限大人、私も衆生の門で修行できるでしょうか」 食事中、なんとはなしに訊ねてみる。无限大人は少し言い淀んでぽつりと答えた。 「……危ないから」 「え、でも、ゲームですよね」 「ゲームだが……」 「それに、楽しそうですし。私、やってみたいです!」 「…………」 无限大人は止めたそうな顔をする。あわよくば修行をしてみたい。私だって、水を操れるようになるかもしれないし。 「……私が、一緒のときだけなら」 无限大人は、最後にはしぶしぶそう言ってくれた。 ← | → |