14.師弟の修行

 紅榴さんとの出会いが刺激になったのか、小黒は前より修行に力を入れるようになった。せっかくのお休みの日も、遊びに行きたいとは言わず、修行をしたいと言って无限大人と一日中手合わせをしているようだった。无限大人もそれをよしとして、小黒を鍛えるのに熱心で、二人と顔を合わせるのはご飯のときだけになった。
 以前はあれだけいろいろなところに遊びに行っていたのに、と思うと寂しいけれど、小黒にとって必要なことだということはよくわかっている。私にできることは、美味しいご飯を作ることだ。二人の疲れを癒して、明日も頑張ろうと思えるようなご飯を作ろう。そう決めて、空いた時間で料理研究を始めてみた。中国料理は奥が深い。つい肉料理が多くなるので、今日は魚料理を作ることにした。
「小香! ただいまー!」
 无限大人の霊域で修行していた小黒が、何もない空間からぽんとリビングに現れた。そのあとから、无限大人が姿を現す。
「おかえりなさい、二人とも。汗かいたでしょう。先にお風呂入りますか?」
「そうしようか、小黒」
「お腹空いたー!」
 小黒は文句を言いながらも、お風呂場に飛び込んでいった。二人が汗を流している間に、仕上げをして、食卓に料理を並べる。二人はさっぱりした様子でお風呂から出てきて、さっそくテーブルについた。
「今日は魚だ」
 小黒は鼻をひくつかせる。
「清蒸鮮魚だよ。いつもお肉だから、たまには魚にしようと思って」
「ぼく魚も大好き!」
 小黒はたっぷりご飯をついだお茶碗を片手に、魚に箸をつける。无限大人も、魚の身をほぐして、口に入れた。
「どうですか?」
「うん。柔らかくてうまい」
「よかった」
 自分でも食べてみて、結構うまくいったかも、と頷く。
「小黒、さきほどのことだが」
 ご飯を食べている間も、修行の話になる。小黒はご飯を掻き込みながら、耳をぴんと立てて真剣な様子で无限大人の話すことを聞いている。二人とも集中しているので、私は静かにご飯を食べる。こうなると、二人の間には入っていけない。小黒は本当に頑張っている。それがよく伝わってくる。本当は毎日でも修行を見てほしいのだろうけれど、无限大人は相変わらず忙しい。だから、手の空いているときに、たくさんのことを小黒に教えている。小黒は教えられたことをしっかりと記憶して、毎日繰り返し、身体に覚えさせて、次会ったときにその成果を見せて、次の段階を教えてもらう。その繰り返しだ。
 ご飯を食べ終わると、小黒はすぐに寝てしまった。遊ぶ元気も残っていないようだ。ちょっとストイックすぎないかと心配になったりもする。無理はしていないといいのだけれど。
「小黒、どうですか?」
 なので、无限大人に聞いてみる。
「うん。よくやっているよ」
「无限大人がいないときも、毎日館で相手を見つけて手合わせしたり、一人のときも型を練習したり、金属を操る練習をしたり、頑張ってます」
「そうか」
「大丈夫でしょうか。少し、根を詰めすぎてはいないでしょうか……」
「あの子のことをよく見てくれてありがとう」
 无限大人はふと笑みを浮かべる。
「確かに、最近は修行ばかりだったな」
 それから、少し考えてそうだ、と思い出したように言った。
「もうすぐ、花の時期だな」
「あ、そうですね」
 気が付けば、もう春が近い。まだ寒い日が続くけれど、だいぶ和らいでいた。
「花を見に行こうか。お弁当を持って」
「いいですね!」
 その提案が嬉しくて、すぐに頷く。
「二人が修行している間、少し寂しかったですから……。嬉しいです」
 そして、正直に伝えた。无限大人は眉を下げて、私の頭をそっと撫でる。
「すまない。寂しい思いをさせたな」
「いえ。小黒が頑張ってるの、知ってますから。応援したいんです」
 だから、今だけは、と无限大人の肩に頭を乗せる。
「少しだけ、甘えてもいいですか?」
「いいよ。甘やかしてあげる」
 そっと髪に口付けをされ、嬉しくて目を閉じる。无限大人の腕にぎゅっとしがみついて、二人の時間を堪能した。

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