100.愛してる

「お疲れ様」
倒れるようにベッドに寝転がると、无限大人が労うように頭を撫でてくれた。お母さんはもう帰ってしまって、本格的に美香ちゃんの世話をするようになった。だんだん授乳の頻度は減っているけれど、まだまだ24時間、気がくけない。疲れは感じるけれど、辛くはなかった。毎日がとても幸せで、満ち足りている。美香ちゃんがみるみる成長していくのがよくわかって、楽しいばかりだ。
无限大人は私の手に指を絡めて、隣に寝転んで顔を覗き込んでくると、キスをしてきた。最近は、たまに軽く触れるくらいだったから、久しぶりの深めのキスだ。暖かな吐息と優しい触れ方にとろんとなってしまう。
「ん……」
「君はますます素敵になっていくな」
「そうですか……?」
唐突にそんなことを言われて、首を傾げる。美香ちゃんのお世話で手一杯で、身だしなみは二の次になっていた。訝しげな私に、无限大人はただ笑う。
「君が選んでくれたのが私で、よかった」
「それは……私こそ、ですよ」
无限大人が振り向いてくれたのは、奇跡だと今でも思う。本当なら、何も起こらず、あのままお別れしていてもおかしくなかった。なのに、无限大人は私の声を聞いて、目を見て、笑いかけてくれた。私の存在を、認めてくれた。私の心を、受け止めてくれた。それが本当に嬉しくて、これ以上の幸せなんてないと思っていた。
なのに、一緒に住むようになって、ちゃんとした結婚をして、子供まで授かった。惜しみなく愛してくれて、たくさんのものを与えてくれた。こんなに満たされていていいんだろうかと心配になってしまうくらいだ。でも、一度だって不安にさせたり、疑わせるようなことはなかった。揺るぎなく深い愛情に包まれて、私は幸せだと何度でも思わせてくれた。
「私を好きになってくれて、ありがとうございます」
微笑み合って、見つめ合う。奇跡的なことだけれど、でも、紛れもなく无限大人はここにいてくれている。それがとても嬉しくて、心がじんわりと暖かくなる。きっと、无限大人は強いから、一人でも十分生きていけるだろうし、実際、これまでは一人で生きてきたんだろう。けれど、小黒と出会って、私と出会って、人間の社会でまた暮らすようになってくれた。遠くて手の届かない雲の上の存在なんかじゃなくて、目線を同じくし、同じものを食べて、同じものを見て、一緒に笑ってくれる人だった。話すたび、どんどん好きになって、子供ができた今もまた、その微笑みに見蕩れてしまう。きっと何度でも、私はこの人に恋をする。
「初めて会った時から、ずっと好きでした。今はもっと大好きで、どうしていいかわからないくらいなんです」
美香ちゃんに見せる優しい笑顔は、小黒に向けるものとも少し違って、どきっとしてしまう。
「无限大人こそ、もっともっと魅力的になっちゃうから、困っちゃいますよ」
「ふふ。それは嬉しいな」
无限大人は私の腰を優しく抱き寄せて、身体を密着させる。抱き締め合うだけで胸が愛でいっぱいになって、甘く満たされる。
「ずっと、私を見ていて欲しい」
額を寄せて、深い翡翠の色がじっと覗き込んでくる。どきどきしながら見つめ返していたら、吸い込まれそうでくらくらした。
「見ています……ずっと、あなただけ……」
そっと瞼を閉じて、唇を重ね合う。温もりが皮膚を通して染み入ってきて、全身に想いが満ちていく。
「愛している」
これからの長い人生を、あなたと共に。
どうか、ふたり分かち難く愛し合って、最後の刻を迎えるそのときまで。

| →