99.家族四人の聖夜

「メリークリスマス!」
玄関を開けると、途端に元気な声が飛び込んできた。冷たい風に縮こまりながら、マフラーやコートでもこもこになった子供たちがどんどん入ってきた。
「こんにちは!」
「お邪魔します!」
子供たちは礼儀正しく部屋に上がってくる。スリッパが足りないので、そのまま上がってもらうことにした。
「いらっしゃい! メリークリスマス!」
リビングだけでなく、そこに続く廊下も飾り付けされていて、今日は我が家全体がクリスマス一色だ。最初は小白ちゃんたちだけを呼ぶ予定だったけれど、小黒の他の友達たちも来たいということになって、結構な人数になった。
「小黒! メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
小黒は友達を笑顔で迎え入れる。どうやら全員リビングに入れそうだ。
「小香さん、こんばんは!」
「小白ちゃん、こんばんは。来てくれてありがとう」
小白ちゃんが山新ちゃんと阿根くんと挨拶に来てくれた。小白ちゃんはパーティだからということもあるけれど、きょろきょろとして落ち着かない。
すると、子供部屋の方から泣き声が聞こえてきて、みんながそちらへ顔を向けた。
「赤ちゃんだ!」
「泣いてる?」
「うるさかったかな」
ざわざわとするので、大丈夫だと伝える。部屋でお母さんが見てくれていた。
「小香さん、私赤ちゃんに会いたい!」
小白ちゃんはきらきらした瞳で私を見上げてくる。山新ちゃんもクールにしつつ、興味ありそうに視線を向けてきた。
「でも、急に押しかけたらびっくりさせちゃうよ」
阿根くんは心配そうだった。
「全員一度には難しいけど、数人ずつならいいよ」
「ほんと!?」
他の子達も嬉しそうにどよめいた。お母さんに赤ちゃんの様子を聞いてから、まずは小白ちゃんたちを呼び入れた。みんなの反応を見ようと、小黒もやってくる。
「お邪魔します」
小白ちゃんは、お母さんに抱っこされている赤ちゃんを見て、声を小さくしてそっと話しかけた。お母さんが少し屈んで赤ちゃんの顔が見やすいようにすると、山新ちゃんと阿根くんも首を伸ばして覗き込んできた。
「わあ、かわいい!」
「美香っていうんだよ」
小黒が自慢げに名前を教える。
「美香ちゃん! 可愛い名前だね!」
小白ちゃんはそっと手を伸ばして赤ちゃんの頭を優しく撫でる。山新ちゃんはちっちゃい……と恐る恐る接していた。
「小黒もお兄ちゃんだね」
阿根くんに言われて、小黒は嬉しそうに大きく頷いた。
入口を見ると、他の子たちが中の様子を覗こうとぎゅうぎゅうになっていたので、一旦小白ちゃんたちに外へ出てもらって、交代で美香ちゃんの紹介をした。
「おれ、赤ちゃん見るの初めてだ」
「ちっちゃいなあ」
みんな騒ぐことなく、落ち着いていたので、美香ちゃんも泣き出したりせず、穏やかにうとうとしていた。
「テーブルの準備ができたよ」
みんなが赤ちゃんに気を取られているうちに、无限大人が準備を終えてくれていた。クリスマスパーティなので、ちゃんと三角の帽子を被っている。みんなもそれぞれクリスマスっぽい格好をしてきてもらっていた。私は小黒が買ってきてくれたトナカイの角のカチューシャだ。
「やった! さっそく食べよう!」
小黒が子供たちをリビングに連れ出して、ようやくパーティが始まった。私たちは一旦子供たちに任せることにして、自分たちの分の料理を持って美香ちゃんの部屋に戻った。
「お母さんも食べよう」
パーティの準備の間は交代で面倒を見ていたので、休憩してこちらも食事にすることにした。お母さんはお菓子を食べながら、楽しそうににこにこしている。
「賑やかなパーティね」
「ほんとに。小黒、こんなに友達ができたのね」
「もう二年目だからな」
三人で小黒の成長にしみじみとしてしまう。壁越しに聞こえる元気な子供たちの声が心を暖めてくれた。
「学校にも馴染めたし、美香ちゃんのことも妹として可愛がってくれて、ほんとによかった」
ふと、出会った頃の小黒を思い出す。今と比べると小さくて、まだ不安定で、幼かった。
「あの子はもう、大丈夫だ」
无限大人も友達に囲まれた小黒の姿に安堵して、笑みを浮かべている。美香ちゃんが起きて、ぐずり出したので食べるのを止めて抱き上げる。すると、安心したのかまた寝てしまった。
「美香ちゃんも、すぐに大きくなっちゃうのかな」
「子供の成長はあっという間よ。たくさん写真を撮っておくといいわ」
お母さんに言われて、そうしよう、と決める。この瞬間の美香ちゃんは、今しか見られない。
「もう、お母さんの顔ね」
美香ちゃんの寝顔を眺めていたら、お母さんにしみじみと言われてしまった。
「すっかり母親だ」
无限大人にも言われて、そうなのかな、と思う。その場その場でのお世話で手一杯で、母親としてどうしたらいいかなんて、ちゃんと考えたことはないけれど。
「それでいいのよ。いろいろ考えていても、その通りにはならないのが育児だしね。美香ちゃんがどうしてほしいかちゃんと見てあげて、たっぷり愛してあげるといいわ」
「それは、もちろん!」
自信がある、と无限大人と顔を見合わせる。誰よりもこの子を愛している。その自信は絶対だ。この子のためになんでもしよう。
いつか大人になって、私の手の中から飛び立っていくまで。

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