98.誕生日会

「小香、これそっちにつけて」
「はい」
 若水姐姐に渡された飾りを壁につけていく。
「こっち終わりましたよ。手伝うことありますか?」
 空になった箱を持って、逸風くんが声をかけてきた。
「こっちももう終わるから大丈夫だよ」
 そう答えながらももう作業は半分終わっている。あと少しだ。最後の飾りを取り付けて、少し離れて部屋全体を見渡してみる。
「いいかんじですね!」
 風船や色紙で飾られた部屋は華やかで楽しい気分にさせてくれる。
「料理持ってきましたよ!」
 そのときドアが開いて、紫羅蘭ちゃんと洛竹くんが料理を運んできた。そろそろ開始の時間だ。参加者たちも続々と集まってきた。
 鳩老に冬冬くん、阿龍さん、花輪さん、肉山ちゃん、兆岳さん、天介さん、他にも、よその館からも執行人たちが訪れていた。豪華な顔ぶれだ。みんな、手にプレゼントを抱えている。
「はい、どうぞ」
 訪れてくれた人たちに、クラッカーを配る。全員に行き渡ったのを確認して、若水姐姐が音頭を取った。
「準備はいい? タイミングを合せるのよ!」
 全員が頷き、ドアが開くのを見守る。かちゃ、とノブが周り、ドアが開いた。小黒と无限大人が入ってきて、みんなで息を合わせてお祝いをした。
「小黒、お誕生日おめでとう!」
 そして一斉にクラッカーを鳴らす。パンパン、と元気な音が鳴り響き、紙吹雪が部屋中に舞った。小黒は驚いて一瞬耳をぺたんとしてぎゅっと目を閉じ、目を開けると、そこにはたくさんの笑顔が広がっていて、小黒自身もぱっと笑顔になった。
「わあ! すごいや!」
「ほら、主役は真ん中に来て!」
 若水姐姐が小黒の手を引いて、真ん中のケーキの置かれたテーブルに連れて行く。无限大人はゆっくりと後をついてきた。
「小黒は今日、何歳になったの?」
「十歳!」
「うんうん! みんなお祝いに来てくれたよ! それじゃ、料理が冷めないうちに食べよう! 无限、ケーキを切り分けてくれる?」
「わかった」
 若水姐姐に言われて、无限大人はケーキをきれいに切り分ける。
 最初のひとつを取り分けて、小黒に渡した。
「はい、どうぞ」
「すごく美味しそう!」
 小黒は目を輝かせてケーキを受け取ってくれた。
「料理は紫羅蘭と小香が作ってくれたのよ。洛竹も手伝って」
「いっぱい作ったので、いっぱい食べてくださいね」
 紙皿に、切り分けてもらったケーキを移し、配っていく。ちゃんと人数分足りるように作ったけれど、本当に足りるか少しどきどきだった。小黒のために、こんなに集まってくれるなんて、すごいことだ。なんだかこっちまで嬉しくなる。ケーキは二切れ残った。まだ冠萱さんと館長が来ていない。二人とも忙しいけれど、今日は参加したいと言っていたから、きっとそのうち来てくれるだろう。
 ケーキを食べ終わったら、プレゼントを渡す時間だ。みんなは順番に、持ってきた大小の包みを小黒に渡していく。小黒は積み上がっていくプレゼントににこにこと笑顔を浮かべて、ひとつひとつとても嬉しそうに受け取っていった。最後に、私と无限大人の番が来て、スポーツシューズを入れた箱を渡した。
「小黒、お誕生日おめでとう」
「ありがとう、小香! プレゼント、何かな?」
「スポーツシューズだよ。これ履いて、また公園で遊ぼうね」
「やった! うん、遊ぼう!」
 想像以上に眩しい笑顔で喜んでくれて、とても嬉しくなった。プレゼントって、もちろんもらうのも嬉しいけれど、渡すのもとても楽しいことだと思う。
「小香が選んでくれたんだ。かっこいいぞ」
「ほんと? うれしいな」
 无限大人が付け加えてくれて、小黒は改めて箱を目の高さまで上げて、中身を想像して笑う。
「遅れてすまない」
 そのとき、館長と冠萱さんが部屋に飛び込んで来た。若水姐姐がちょうどプレゼントを渡しているところだと伝えると、二人も小黒に持ってきたプレゼントを渡した。これで全員集まった。
「この一年が、きみにとっていい年となるよう、願っていますよ」
「ありがとう、館長」
 館長と冠萱さんにケーキを渡す。これでプレゼントはみんな渡し終わった。あとは残りの料理を食べながら思い思いに話し始めた。執行人がこんなに集まる機会はなかなかないんじゃないかと思う。
「よう、小黒。大漁だな」
「ナタ! へへん、いいでしょ」
 二つお団子をくくった髪型の子が、小黒に話しかける。見た目は小黒より少し年上、若水姐姐と同じくらいの身長だ。ナタ、という名前に聞き覚えがある気がして首を傾げる。
「小香、ナタだよ。本部の執行人なんだ」
「本部の……あっ、もしかしてナタ太子……ですか!?」
「あんたが小香か」
 ふうん、とナタ太子は私のことを見上げる。そして隣の无限大人に目を向けた。
「もっと違うのを想像してたな」
「素敵な人だろう」
 无限大人は笑みを浮かべて私の肩にそっと手を回す。そんな風に言われて、顔が赤くなってしまった。そんな私たちを見て、??太子は眉を寄せた。
「マジか。そういうキャラだったかお前?」
「どういう意味だ」
「師父はねえ、小香のこと大好きなんだよ」
「ああ、それはよくわかった」
 小黒がにやにやとするので、ナタ太子もにやにやと答える。なんだか居た堪れない。ナタ太子の私に対する第一印象がこんなのでいいんだろうか……。
「ケーキ、うまかったぜ。ごちそうさん」
 ナタ太子はにやりと笑ってそう告げて、館長のところへ行ってしまった。その笑みがかわいらしい見た目とギャップがあって、少しどきりとした。そんな私を、无限大人がじとっと見つめてくる。
「パーティ終わったら、ナタと遊ぶ約束してるんだ!」
 そんな私たちをよそに、小黒が楽し気に教えてくれた。本部の執行人なら、忙しくてなかなか会えないだろう。せっかくの貴重な機会だ。
「いいな! 私も混ぜて!」
 そこに若水姐姐が聞きつけて、小黒に抱き着きながら参加しようと言ってきた。
「逸風も遊びましょうよ!」
 さらに、隣にいた逸風くんを巻き込む。逸風くんは驚いた顔をして肩を竦めた。
「まさか、ナタ太子と遊ぶなんて恐れ多いですよ……!」
「そんなことないよ。楽しいよ!」
「いやいや、ほら、このあと仕事があるし……ねえ、冠萱さん」
「いいんじゃないですか。行ってきても。いい機会ですよ」
「ええっ……」
 冠萱さんに背中を押されてしまって、弱っている逸風くんに若水姐姐と小黒が畳みかける。せっかく遊ぶなら、大人数の方が楽しいだろう。楽しそうに逸風くんをからかっている小黒を、微笑ましく見守る。小黒はひとつ、大人になった。これからは、毎年その成長を見守っていけるのだと思うと、楽しみで仕方がない。
 小黒がいつも笑顔でいられるように、守ってあげたい。そんな気持ちが強くなった。

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