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また船に乗って、今度は狐山に向かった。ここには楼外楼という料理店がある。清の時代からある老舗だそうだ。中は豪奢で、眩いばかりの装飾がほどこされていて、ちょっと高級店かと思う。けれど、席についてメニューを見ると、そこまで高くはなかった。 「あ、東坡肉あるよ!」 さっそくメニューを吟味していた小黒が私に見せてくれた。 「ほんとだね。そういえば、確か、東坡肉って西湖が発祥の地だったかな」 宋代の詩人、蘇東坡が考案したレシピだとか、なんとか。ということは、本場の味を確かめられるわけだ。三人でそれを頼むことにして、他に麺料理や炒め料理なんかを頼む。 「たくさん歩いたからお腹ぺこぺこだよ」 「たくさん食べられそうだな」 「ふふ。好きなだけ食べてください」 なんとなく、先ほどの鯉たちの食べっぷりを思い出して笑ってしまった。 店員さんが運んできてくれた東坡肉は大きかった。丸い筒のような容れ物に、拳大の肉の塊が入っている。これが本場。 「いただきます」 さっそく食べてみると、とても柔らかくて、頬が蕩けた。 「ん、美味しいー!」 「うん」 无限大人も一口食べて頷く。 「これも美味いが、やはり小香が作ってくれるものの方が好きだな」 「えっ」 にこりと微笑まれてそう言われるので、動揺してお箸を落としそうになった。 「あっ! ぼくも! 小香のも好き! でもこっちも美味しい!」 「もう、プロの味と比べないでくださいよ!」 さすがに、これほどのものは作れない。二人は本心で言ってくれているんだろうけれど、とても比べられるものじゃないと思った。 テーブルに所狭しと並べられたお皿は二人によってどんどん空けられていく。私がゆっくり龍井茶を飲んでいる間に、すっかり空になってしまった。 「ふう〜食べた食べた」 小黒は満足そうに、丸くなったお腹を撫でてげっぷをする。无限大人も充足した様子でお茶を飲んだ。 ごはんを済ませたら、西湖もあと少しだ。 狐山から東へ伸びる白堤を歩き、十景のひとつ「断橋残雪」を渡る。ここは有名な物語『白蛇伝』の舞台となっているそうだ。まだ物語を知らないので、これを題材にしている映画か何かをそのうち見たいと思っている。 「これでぐるっと一周したな」 「楽しかったね!」 「西湖十景も結構見れましたね」 改めて立ち止まり、最後に西湖を振り返る。幽玄な稜線を背景に船がゆっくりと進むさまは本当に癒される。日が傾いてきて、赤い日差しが水面を照らしていた。 「ほんとに綺麗だったな……」 離れがたい気持ちで湖を見つめ、名残を惜しんでいると、无限大人が横に来て、そっと肩に腕を回した。 「季節によって違う景色が見れるよ。また来よう」 「はい。何回でも!」 「行こう!」 小黒も同意してくれて、暖かい気持ちで改めて湖を見る。今度来るときはどんな景色が見られるだろう。そのとき、私たちは、どんなふうに変わっているだろう。 帰り道もタクシーを呼ぼうとしたら、道がかなり混んでいて、なかなか乗れなかった。じゃあバスで、と思ったけれどこちらもいっぱいだ。同じように、帰る人がたくさんいるのを失念していた。それにしても、こんなにいるなんて。 「小香、大丈夫か?」 「はい、なんとか……」 「飛んで行こうか」 「それはだめです」 心配して、真面目な顔でとんでもないことを言う无限大人をなんとか押さえて、駅まで頑張って歩く。 暗くなる前に駅につけて、ほっとした。電車に乗って席に座ると、一気に疲れが出てきて、眠くなってしまった。 「んん……」 「疲れただろう。少し眠るといい」 「でも……」 「ふぁあ……ぼくも眠い」 小黒はそう言うと、すぐに目を閉じてしまった。无限大人を見ると、微笑んで頷いてくれる。じゃあ、少しだけ……と、小黒と寄り添って背もたれに身体を預けた。心地よい振動が、たちまち眠りに引き込んでいった。 ← | → |