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「終わったよ」 「お疲れ様です」 残党の確保が終わったことを、无限大人が教えてくれて、ほっとする。館の中は安全とはいえ、やはりどこか不安が残るのは拭えなかった。 「これで安心して家に戻れます」 「そのことだが……。しばらくはここにいた方がいいんじゃないか」 无限大人は心配げな表情でそう言ってくれたけれど、私は首を振った。 「ここは、妖精のための場所ですから。それに、家の様子も気になるし。帰ります」 もう一つの理由は、无限大人がここにいる影響も気になるからだった。館に不本意なまま住んでいる妖精は、无限大人がここに来ることをよく思っていない。彼らの感情をいたずらに刺激するのはよくないだろう。 「無理はしないでくれ」 「はい。大丈夫です」 不安を払拭するように笑って見せると、无限大人も笑みを返してくれた。 「では、今日一日は、ここでゆっくりしようか」 「はい」 小黒は知り合いの妖精に呼ばれて出かけていた。小黒が帰ってくるまでは、无限大人と久しぶりに二人きりだ。 「ふふ」 ちょっと嬉しくなって、笑みを零してしまう。无限大人はちょっと不思議そうにしてから、笑みを返した。怖い目に合ったけれど、今は思ったよりも落ち着いている。无限大人も、小黒も、館の妖精たちも、すぐに動いて不安を取り去ってくれた。无限大人がいてくれれば大丈夫。心からそう思える。 「こうしてゆっくりするの、久しぶりですね」 「そうだな。最近はお互い忙しかったから」 「无限大人、疲れていませんか?」 「平気だよ。君がいなくなったときは、生きた心地がしなかったが」 そう言いながら、无限大人は私の腰に腕を回し、引き寄せる。 「朝、楊から君と連絡が取れないと言われたときは血の気が引いた」 「楊さんがすぐに无限大人に連絡してくれてよかったです……」 「君が無断欠勤するわけがないからね」 もし、すぐに気付かれていなかったらと思うとぞっとする。私を攫った妖精が、无限大人があれほど感情を滲ませるのを初めて見た、と言っていたのを思い出す。それだけ、必死に探してくれたんだろう。 「君を失ったらと思うと、正気ではいられなかった」 「无限大人……」 ぎゅ、と私を抱きしめる腕に力がこもる。私も无限大人の背中に腕を回し、頭を胸に寄りかからせた。 「私も、怖かったです。无限大人がいなくなってしまったら……って……」 无限大人は強いし、寿命も長い。だからいなくなるなら私の方だと思っていた。初めて、无限大人を失うかもしれない恐怖を知った。私の思いを受け止めてくれた人。私を思ってくれる人。その人を失ったら、私はどうすればいいのかわからない。考えられないし、考えたくもない。でも、それに直面してしまった。こんなに恐ろしいことがあるなんて、想像もできなかった。 「ずっと……失いたくない……」 「私もだ。もう二度とこんな思いはしたくない」 无限大人の腕の中に閉じ込められたまま、ずっと目を閉じていれば、きっともうこんな怖い思いをしなくて済むんだろう。でも、そういうわけにはいかない。 そっと无限大人の腕の中から抜け出して、立ち上がる。 「お茶、淹れますね。お菓子もらったんです。一緒に食べましょう」 「うん。ああ、私も手伝う」 備え付けのポットでお湯を沸かし、茶器に茶葉を入れる。无限大人もついてきて、傍を離れないようにしながら、コップを用意して、お菓子を器に移してくれた。 一緒に向かい合って座って、お茶を飲みながら別の話をし始める。 「深緑さん、ずいぶん館に馴染んでました。お茶の淹れ方も上手で。他の妖精たちからは、无限大人との関係についていろいろ聞かれちゃいました」 「そうか」 「ちょっとまだ気恥ずかしいですね。こういうこと話すの……」 「どんなふうに答えたの?」 无限大人はちょっと意地悪な表情で訊ねてくるので、私は顔を背ける。 「内緒です」 穏やかな時間の流れに静かな声で語り合って、暖かな一日を過ごした。 ← | → |