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「師父からだ!」 どれくらい待っていたか、気が遠くなりそうになっていたとき、小黒の端末が震える。小黒はぱっと笑って通話をし、私の手を握った。 「終わったって! 行こう!」 「あっ……」 小黒が言い終わるや、また一瞬で景色が変わった。そこはあの工場のはずだったけれど、ほぼすべてのものが形を変えていた。さび付いていた機材も、材料も、壁も。ところどころの金属が拘束具のように妖精たちを身動きできないように押さえつけている。もはや誰一人動けるものはいなかった。何が起きたのかまるでわからないけれど――その中央に立つたった一人の人のそばへ、駆け寄った。 「无限大人!」 手を伸ばす前に、无限大人の腕の中に抱き寄せられた。苦しいくらいにぎゅう、と抱きしめられる。よかった。無事だ。 「よかった……」 「すまない……怖い思いをさせてしまった」 「いえ……いいえ……。无限大人が無事なら、私はもう……っ」 押さえていた涙が、我慢できずに溢れだす。 「怪我はないか。何かされなかったか」 「大丈夫です。何もなかったです……」 「怖かっただろう。本当にすまない。私が至らないばかりに君を危険な目に遭わせて」 无限大人は自分を責めるようにそう繰り返す。私は何度も首を振った。 「无限大人のせいじゃないです。こうして、助けに来てくれたんですから」 少し離れた場所で遠慮がちに待っている小黒を振り返る。 「小黒も、ありがとう。助かったよ」 「うん……ぼくも、小香が無事で本当によかったよ」 「瞬間移動ってすごいんだね」 「でも、対策されてた。小香の周りを土壁で囲われてたから、すぐに助けにいけなくて……ごめん」 「そうだったんだ。でも、? ![]() 肩の力が抜けて、笑う余裕が出てきた。ぴょこん、と??が肩に乗ってくる。 「? ![]() 「ヘイショ!」 「館には連絡した。これから彼らを回収に来る。それまでは、ここで待機していなければならないのだが……」 无限大人が申し訳なさそうに言いながら、私の背をそっと撫でる。 私は无限大人に寄り添ったまま、頷いた。 「大丈夫です。无限大人の隣が一番、安心できますから」 心からの気持ちでそう伝え、微笑む。本当に、もう恐怖を感じていない。この逞しい腕の中にいれば、何も怖いものなんてないと思える。 「彼らは、どうしてこんなことを……」 「風息たちのように、館に反発している妖精はまだいる。そのうちの一グループだ。近頃は大人しくしていたから、監視が緩んでいたのは事実だ……。まさか、このような卑劣な手段を使ってくるとは」 イグアナの妖精の、覚悟を決めたような荒んだ瞳を思い出す。でも、それは、それだけ追い詰められていたということ……。 「風息は、あと一歩のところまで私を追い詰めた。だから今度は確実に、と計画を練ったのだろう。あのときも、私は小黒に助けられた。今度も、助けられたな」 「へへ! ぼくは師父の弟子だからね!」 无限大人に褒められて、小黒は鼻高々だ。いつもの遊んでいるときの無邪気な表情とは打って変わって、隙のない鋭い視線をしていた小黒は、本当に強そうだった。ただの子供ではない。力のある妖精なんだと、改めて思い知らされる。 无限大人は強い。だからこそ、反発も激しい。こんな抵抗を受けることは、いままでもきっとあったのだろう。そのたびに、この人は退けてきた。本当に、強い人だから。だけど、すべてを一人で背負って欲しくはない。 「小黒、これからも无限大人のこと、助けてね」 「もちろん。任せて!」 小黒の頼もしい返事に、心が少し軽くなる。私の身体をしっかりと抱きしめている腕に、少し力が入る。私はもう少し寄りかかる。その腕はすべてのものから私を守ろうとしてくれているようだった。 ← | → |