81.川の字

「おはよう、師父! 小香!」
 翌朝、小黒は元気に起きてきた。无限大人が帰ってきてくれて嬉しくて仕方ない様子だ。
「おはよう小黒。お粥できてるよ。食べようか」
「うん! お腹すいた!」
 久しぶりに三人で食卓を囲んで、朝食にする。无限大人は一口食べて、笑みを浮かべた。
「君の料理を食べると、帰ってきたという実感がわくよ」
「ふふ。任務、大変でした?」
「そういうわけではないが、時間がかかってしまったからな」
 无限大人は小黒を見る。小黒はぱっと无限大人から顔を背けて、お粥をすすった。今回も、寂しさを感じていたのだろう。私も、仕事が忙しくてあまりかまってあげられなかった。
「帰る場所があるというのは、いいな」
「はい」
 しみじみとした口調に、胸がじんとする。无限大人の帰る場所になれているならそれ以上のことはない。ご飯を食べ終わると、无限大人はさっそく小黒を呼んだ。
「ちゃんと修行は続けていたか?」
「当然!」
「では、成果を見せてもらおうか。小香、ちょっと出かけてくるよ」
「はい。いってらっしゃい」
「昼には帰ってくる」
「いってきます!」
 飛び跳ねるように无限大人の後ろについていく小黒を微笑ましく見守って、さて、と部屋を振り返る。近頃、家事もあまりできていなかったから、今日で片付けてしまおう。気合を入れて取り掛かった。
 お昼前には粗方片付いて、昼食の準備をする。そろそろできあがるというところで二人が帰ってきた。
 たっぷり身体を動かしてきたようで、汗をかいている。
「先にシャワー浴びようか、小黒」
「うん! 師父入ろう!」
 渋るかと思ったら小黒はにっこり頷いて、无限大人を引っ張るようにしてお風呂場に向かった。汗を流してさっぱりした二人とお昼を食べて、午後からまた二人は修行だと出かけていった。ずいぶん気合が入っている。一人で何をしようか考えて、ゆっくりコーヒーでも飲みながら本を読んだり映画を見たりすることにした。考えてみたら、一人で過ごすのは久しぶりかもしれない。无限大人がいない間も、小黒がいてくれていた。一人で座るソファは、少し大きく感じられた。
 夜、ご飯を食べて、寝るまでの時間を三人で過ごす。小黒はずっと元気で、今日はなかなか眠ろうとしなかった。
「そろそろ寝る時間だろう」
「まだ眠くないよ! 明日になったら、また師父は任務だし……」
 だから、と小黒はリビングから離れようとしなかった。无限大人は優しい笑みを浮かべて、小黒の頭を撫でる。
「今日は一緒に寝ようか」
「……! うん!」
 大きく頷く小黒に、无限大人はこちらを見る。
「君も。リビングで三人で寝るのはどうかな」
「あはは、川の字ですね」
「川?」
 小黒が首を傾げるので、指で床に川の字を書いて見せる。
「両端に私と无限大人が寝て、真ん中が小黒。ね?」
「へへっほんとだ!」
 にへ、と笑って納得する小黒と无限大人にテーブルを移動してもらい、空間を作るとそこに布団を敷いた。隣に无限大人がいるからすっかり安心して、小黒は布団に入るとすぐに寝付いてしまった。
「やっぱり、眠かったんだな」
「でも、无限大人といたかったんですよ」
 二人で小黒の寝顔を見守る。そして、小黒越しに无限大人と目を合わせ、微笑みあった。

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