76.一緒に住めたら

 久しぶりに休みが重なって、无限大人と小黒がうちに来た。夕飯を食べて、夜の時間をゆっくり過ごしていると、いままでよりずっと二人と距離が近づいているような気がする。家族だと思ってると伝えられたことで、また小黒が家族がどういうものか実際に感じたことで、より気安く接することができるようになったと思う。
「次、小香の番だよ」
「うん、えーと……」
 小黒が手札を差し出してくるので、どれを取ろうか悩む。私は今ジョーカーを持っていない。だから、小黒か无限大人が持っているはずなんだけど、どっちが持ってるだろう。小黒の顔を見ながら手札を選ぶ。右側に手を持っていくと、小黒の口角が上がる。左に持っていくと、眉をしかめる。これかな、と思って引いたら、小黒がにっこりして、私の手元にジョーカーが来た。
「へへ!」
「あー、しまった」
 小黒がにやりとするので、困ったふりをする。无限大人をちらりと見ると、ちょっと笑っていた。私は身体の後ろでカードを混ぜて、无限大人の前に差し出す。
「はい!」
「うん」
 无限大人はじっとカードを見て、ぱっと一枚引いた。ジョーカーだ。私はポーカーフェイスできていると思ったんだけど……。どうしてわかったんだろう。なんかジョーカーを当てるゲームになってるし。
「さあ、小黒」
「むむむむ……」
 小黒はぎゅっと眉を寄せて目を凝らし、カードを透視しようとでもいいように見つめる。そして一生懸命悩んでから一枚引いて、ぱっと笑った。そろった八のカードを二枚捨てた。
「あと一枚ー!」
 残った一枚のカードを嬉しそうにこちらに向けてくるので、悔し気に引くと、空になった両手を上げてわぁいと叫んだ。
「ぼくの勝ちー!」
「負けちゃったなぁ」
「へへん!」
「今日はここまでにしようか」
「そうですね。小黒、もう寝ようか」
「ええ、もうちょっと遊ぼうよ!」
 ぐずる小黒をなだめながら、片づけをして、寝る準備をする。最初は頑張っていたけれど、瞼が落ちそうになるのは止められないようで、うつらうつらしてくる。
「師父、小香、おやすみ……」
「おやすみなさい」
 布団に横になると、すぐに安らかな寝息が聞こえてきて、そっとドアを閉める。ソファに座る无限大人の隣に行って、触れそうなくらい近くに座る。无限大人は腕を回してきて、肩を引き寄せるので、頭を无限大人の肩に乗せた
「そのうちに、家を買おうか」
「家を?」
 突然の言葉に、驚いて顔を上げる。うん、と无限大人は頷いた。
「考えていたんだ。前から。こうして君の家に世話になるたびに、一緒に住めたらいいと」
「でも……仕事が」
「うん。それは大丈夫だ。すぐにというわけではないが、君はどうだ?」
「それは、もちろん、一緒に住みたいです!」
 聞かれて、間を開けずに即答する。
「はは。よかった。小黒にも、落ち着ける場所がある方がいいだろうから」
「そうですね。いままでの生活も楽しそうでしたけど」
「我慢をさせてしまうこともあったからな。もう少し、一緒にいられる時間も増やせると思う」
「本当ですか?」
 執行人の仕事が忙しいことはわかっているけれど、やっぱり一緒にいてくれるならそれが一番だ。小黒の寂しい気持ちが、満たされるといい。
「どんな家にしようか。考えておいて」
「はい……! わあ、楽しみになっちゃいました。どんな家がいいかな……」
「小黒にはもう少ししたら私から話すよ」
「わかりました」
 生活が大きく変わる予感がして、どきどきしてくる。无限大人は今の方が都合がいいだろうからと、一緒に住むことは考えていなかった。だから、无限大人から発案してくれたことが嬉しい。一緒に住めたら、本当に素敵だ。出かける无限大人をいってらっしゃいと見送って、帰ってきた无限大人をおかえりなさいと出迎える。そんな日々が、早く来て欲しい。

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