![]() |
「おかえり。どうだった?」 職場に行くと、雨桐が迎えてくれて、帰ってきたと言う実感が湧いた。こちらもまた、私の帰る場所だ。 「うまく行ったよ。お互い、いい感じの印象だったと思う」 「そっか。よかったね。ただでさえ国際結婚って大変そうじゃん」 「け、結婚は……しないけど……」 「同じようなもんでしょ。その上、お相手があの无限大人だもんね」 「うん。そこは无限大人も気にしてた。でも、家族も妖精っていう、人間とは違う存在との付き合いが長いから、そこまで戸惑ってなかったと思う」 どちらかと言うと、无限大人の執行人としての立場に委縮しているところはあったと思う。无限大人の人柄もあって、すぐに打ち解けていたけれど。 「みんな館関係なんだっけ?」 「祖父母と両親はそう。兄弟は普通に就職してる。雨桐もそんな感じでしょ?」 「まあね。でも、あんたみたいにここで働こうってつもりは最初はなかったんだよね」 成り行きだよ、と雨桐はクールに言う。 「私は、妖精を知らない社会にいるのが想像できなかったから……。学校ではちょっと浮いてたかも」 「あはは。しょうがないよね」 でも、それももうすぐ終わるかもしれない。全ての人が、妖精を知る日が来るかもしれない……。いままで漠然と抱いていた理想が現実になるかもしれないと思うと、不安と期待が入り混じって落ち着かない気持ちになった。 「そうだ、お土産買ってきたよ」 「お! キットカット買ってきてくれた?」 「あといくつかのお菓子」 「やった」 お菓子を詰めた袋を受け取って中身を覗き込んで雨桐は舌なめずりをした。よっぽど日本のお菓子を気に入っているらしい。私も、やっぱり日本製が恋しくなってしまう。 雨桐はさっそくキットカットを開けて、一つ齧った。私はなんとなく半分に折ってから食べるけれど、雨桐はそのまま齧り付く。 「うん、これこれ」 「他の人にも配ってくるね」 持ってきていたお土産を持って、挨拶がてら職員たちの元を巡り、全員に渡してきた。小さい職場だから、それほど時間はかからない。人間の職員よりは、妖精の方が多い。 楊さんの部屋は奥にある。ノックをすると、すぐに入りなさいと返事があった。 「失礼します」 「ああ、小香か。戻ってきていたんだね。おかえり」 「はい。昨日。お土産どうぞ」 「これはすまんね。そちらの館長には会ったのかな」 「无限大人が会いたいと言うので。それで、衆生の門計画についても、少し聞きました」 「そうだったか」 楊さんも当然計画については知っていた。 「そのうち全員に知らせる予定だよ。まだ固まっていないところがあるからな。それで、君はどう思ったね」 「とてもいいと思いました。どうなるか、想像がつかないですが……やる意味は大いにあると思います」 「うん。きっと色々なことが変わるだろうな」 楊さんは窓の外に目をやる。この職場は館のある空間にあるから、元の空間とは切り離されている。 「昔、人間と妖精は一緒に暮らしていることもあったと聞きます。人間は妖精を敬い、奉っていた。どうして忘れてしまったんでしょうか」 「人間は知恵をつけ、賢くなり、自然を支配化に置いた。そうして力をつけたから、恐れることをやめ、豊かさを求めて破壊を躊躇わなくなった」 「……人間は、強いですね」 その強さで、他の生き物たちを追いやってしまった。そのことを、知らなければならないと思う。知ることで、変わることはきっとある。 「相手は強い。我々は戦う方法を考える必要がある。やっとここまで来たのだ。君も、忙しくなるだろうが、頼りにしているよ」 「はい!」 私は大きく頷いた。 ← | → |