6.長寿麺

 休みの日、无限大人と小黒が来て、長寿麺を作ることになった。本当は无限大人が作ろうと言ってくれたのだけれど、小黒が私も一緒に作ってほしいと頑として言うので、三人で作ることになった。私も无限大人だけに任せるのはよくない気がしたので、小黒のお願いにすぐに乗った。
「まずは生地を作りましょう」
 薄力粉と強力粉と塩をボウルに振るい入れて、水を加えながら混ぜる。菜箸である程度まとめたら、无限大人に生地を捏ねてもらった。しっかり捏ねたら、濡れ布巾をかけて一時間ほど寝かせる。その間にお茶を淹れて、話しながら待つことにした。
「日本ではね、誕生日のお祝いにケーキを食べるの」
「へえ。いいなあ。ケーキ食べたい!」
「プレゼントを贈るのはこちらと一緒かな」
「それも、最近の風習だよ。近頃はいろいろと変わってきている」
 无限大人がそういうとなんだか厳かな時の流れを感じた。无限大人は、時代の変化をその目で直に見てきた人なんだ。また寿命の違いを意識してしまう。でも今日は、楽しい話をしたい。
「でも、最近はこんなにしっかりとお祝いしてもらうことなかったから、嬉しいです」
 大人になると、時間の流れが速くなり、誕生日もそれほど特別な日ではなくなった。だからこうして祝ってもらうのは少し面映ゆい。
「この日に君が生まれてくれたからこうして今がある。おめでたいことだよ」
 无限大人はさらりとそんなことを言う。おおげさです、と頬が赤くなってしまった。
「ぼくも小香に会えてよかったって思うよ」
「私もだよ、小黒。无限大人」
 小黒と手を握り合って、にこりと微笑む。二人とも、純粋に想いを伝えてくれるからこちらも素直に受け取って、向かい合うことができる。思い切ってこちらに来てよかった。日本も大好きだけれど、新たな世界が広がったうえに、一生を共にしたいと思える人に出会えた。一生、と考えて、指輪に視線を落とす。この指輪は、その証だと思っていいんだろうか。聞きたいけれど、尻込みしてしまう。本当にただ誕生日プレゼントだというだけだとしたら。それでも、もちろん嬉しいけれど。
「そろそろいい時間だな」
 无限大人の言葉にはっとして、時計を見るとちょうど生地を寝かせる時間が過ぎるところだった。
「じゃあ、長寿麺作りを再開しましょう」
 次は生地を麺棒で伸ばす。小黒がやってみたいというのである程度伸ばしてもらい、そこからさらに无限大人が生地を伸ばした。
 伸ばした生地を細く切り、切った麺の両端を持ってさらに伸ばしていく。伸ばした麺を沸騰したお湯に入れて、茹でていく。ここからは私の仕事だ。麺をほぐしながら、スープを作る。无限大人に青梗菜を切ってもらい、スープに入れて茹でる。最後に卵を入れて、器に盛って完成だ。
「はい、できました!」
 初めて作ったけれど、それらしくなったと思う。
「わあい! 食べよう!」
 美味しくできたかどきどきしながら、一口啜る。麺はもちもちとしてこしがあり、とても美味しかった。スープも塩加減がばっちりだ。
「よかった、美味しくできた」
「やっぱり小香がいると美味しい料理になるね!」
「本当なら私が作りたかったが、一緒に作るのもいいな」
 无限大人も微妙に心残りがあるようではあったけれど、そう言ってくれた。
「師父は小香がいないところで料理しちゃダメ」
「む……」
 小黒の厳しい言葉に、むっとしつつも言い返さない无限大人が面白くて、笑ってしまう。そんな私を君までそんなことを、と言う目でうらめしく无限大人は見てきたけれど、小黒がここまで言うのだから仕方ない。小黒と无限大人のやりとりが面白くて、その日は笑いっぱなしだった。前よりもずっと、ここにいることが自然に感じるようになった気がする。それが嬉しい。二人が私を受け入れてくれている。そう思うと、胸が満たされた。

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