66.打ち解ける

 夕飯の時間になって、家族全員が揃った。母方の祖父母に、弟一人と妹二人。成人して弟と妹は家を出たから、久しぶりの再会だった。
「改めて、无限大人と小黒です」
 家族に二人を紹介して、二人に家族を紹介する。やっぱり皆驚いた顔をしていた。弟たちは妖精に関わる仕事はしていないけれど、妖精や執行人のことは知っている。特におじちいちゃんが恐縮してしまって、拝みそうな勢いだった。
「まさか无限大人のようなお方が、うちの孫と懇意にしてくださるとは」
「世話になっているのはこちらです」
「ありがたいことです」
 おばあちゃんがこちらを見て、微笑んでくれた。あのときおばあちゃんに励まされたから、私は決意することができたんだ。おばあちゃんの言葉がなかったら、きっと諦めて、そこで縁が終わっていただろう。
 テーブルには天ぷらやお刺身やからあげといったおかずがたっぷり並んでいる。小黒は大人たちが話している間は大人しくしていたけれど、ご飯になると遠慮せず、どんどん食べてくれた。家族に二人を紹介できたことが嬉しくて、みんなが无限大人のことをすごい人だという風に接するのが誇らしく感じる。そんなすごい人がここにいてくれることが、やっぱり不思議だ。どうして无限大人は私を選んでくれたんだろう。そんな疑問はよく浮かぶけれど、无限大人がこちらを見て、微笑んでくれるだけで十分になって、それ以上考えるのをやめてしまう。无限大人はここにいてくれる。それが確かな事実だ。
「明日はどこへ行くか決めているの?」
 お母さんに聞かれて、頷く。
「浅草とか、東京とか案内しようと思ってるよ」
「それはいいな。じゃあ、車じゃなくて電車がいいか」
 お父さんは車を出そうとしてくれていたみたいだ。
「お父さん、せっかくだからお邪魔しちゃ悪いわよ」
「そうか? でも……」
 というより、一緒に行くつもり満々だったらしい。お母さんに言われて、不満そうな顔をしている。
「いいよ、一緒に行こう。家族で出かけるなんて久しぶりだし」
「そうだよな」
「あら、でも申し訳ないわ」
「いえ、気にしないでください。大勢の方が楽しいでしょう」
 无限大人はそう言って私に視線を向ける。私は頷いた。
「みんなも行く?」
 全員を見ると、みんな頷いてくれた。家族全員で出かけるのはいつ以来だろう。
 ご飯を食べた後は、お酒が振る舞われた。おじいちゃんもお父さんもあまり飲む方ではないけれど、无限大人といろいろ話すためにちょこちょこ飲んでいた。小黒は妹たちに囲まれて、少し戸惑っている。
「トランプわかる? トランプで遊ぼうか」
「うん、わかるよ」
 妹の一人がトランプを持ってきて、小黒と遊び始めた。言葉は通じないけれど、身振り手振りで意思疎通をしている。私は无限大人の通訳として、そちらにかかりっきりになっていた。
「では、やはりそちらでもこういう問題があるんですね」
「うん。しかしどうにもならないわけではないな。たとえば……」
 お酒が入ったからか、少しずつお互い砕けてきているようだ。それにしても話している内容は真面目だった。おじいちゃんもお父さんも、妖精たちの暮らしがよりよくなるように心を砕いている。長年その問題に立ち向かっている无限大人の言葉が、とても響くようだった。
 そのうちに小黒が眠そうに欠伸をしたので、明日も早いからと今日はお開きになった。二人にお風呂に入ってもらって、リビングのテーブルを片付け、布団を敷く。
「あなたもここで寝る?」
「私は……、自分の部屋で寝るから」
「そう?」
 お母さんに訊ねられてどきりとする。まだ、同じ部屋で寝たことなんてない。そういえば、无限大人は早起きだから、寝顔を見たこともなかった。そのうち、とは思うけれど、今はまだ早い気がする。
 お風呂から上がった无限大人と小黒におやすみを言い、二階に上がる。
 私の部屋は、物は減ったけれどベッドなんかはそのままだ。一年ちょっとぶりの部屋。懐かしい気分になりながら、横になった。

|