65.家族との対面

 車が家の隣の駐車場に止められる。私たちはドアを開けて、車から下りた。
「ここがうちです」
 小黒と无限大人を玄関に案内する。その後ろから、両親がついてくる。そして母が、玄関を開けた。
「狭いところですが、上がってください」
「お邪魔します」
 二人を居間に案内して、荷物を置いてもらう。お母さんがお茶を淹れに行くので、手伝った。お父さんが奥に座り、テーブルを挟んで无限大人と小黒が座っている。私は小黒の隣に座った。最後にお母さんがお父さんの隣に座った。
「えっと、改めて。无限大人と小黒です」
「どうも」
「こんにちは……」
「私の母と、父です」
「娘がお世話になっております」
 お互い、頭を下げて、挨拶をする。そこはかとない緊張感が漂っている。私は无限大人と目を合わせる。无限大人が口を開いた。
「小香とは、親しく付き合わせていただいています。生涯を共にするつもりです」
「それは……」
 无限大人の言葉を、照れつつも翻訳して伝える。お父さんとお母さんは言葉を失ったようで、何も言わない。沈黙が下りる。
「あの、无限大人と知り合ったことは伝えてたと思うけど……。その、そういう仲になったっていう報告は、直接会って伝えたくて……」
「あ、ああ。そうか」
「そうなのね。まあ、あらぁ……」
 両親は私を見たり、お互い顔を見合わせたり、そわそわしている。突然こんなことを言われても、すぐには受け止められないのかも。
「小黒は妖精です。无限大人の弟子なの」
「ああ、君は妖精なんだね」
「うん……」
 お父さんは合点がいったといった表情で小黒を見た。妖精の子を見る視線は少し柔らかくなっている。お母さんも和んだ表情を見せた。
「術が使えるのかい」
「うん。師父と同じ、金属と、空間系だよ」
「无限大人と同じとは、さすがお弟子さんだ」
「无限大人、お会いできて光栄です。お噂はかねがね、親の代からご活躍を聞き及んでいます」
「少し長生きなだけです。そう硬くならないでください」
 无限大人の見た目だけなら、お父さんより若く見える。无限大人は気軽に接してほしいと伝えるけれど、お父さんもお母さんも緊張気味の愛想笑いをするばかりだった。すぐに打ち解けるのは難しいかも。でも、初顔合わせにしてはいい感じじゃないだろうか。
「そうだ、西瓜があるんですけど、お二人とも西瓜はお好きでしょうか」
「西瓜!」
 小黒の耳がぴんと立つ。二人とも西瓜は大好きだと伝えると、お母さんは台所にいそいそと向かった。
「その、无限大人、差し支えなければいろいろとお伺いしたいのですが。大陸の妖精のこと……」
 お父さんは職業病が出たようで、仕事の話をしたがった。无限大人は快く頷いたので、私が間に入って、いろいろと教えてもらうことになった。
「父はこちらだと、楊さんの助手くらいの立場にいます」
「そうなのか。あなたの背を見て、小香はこんなにも優しく育ったのですね」
「いや、无限大人にそうおっしゃっていただけると、親冥利に尽きます。この子は子供のころから妖精たちが大好きで、ずっと私たちのように館で働くんだと話していましてね」
「彼女の昔の話、聞きたいですね」
「ああ、それはもう!」
「あっ、へんなこと話さないでよ」
 日本語でお父さんに釘を刺すけれど、へんなことなんてないよと笑われてしまった。
 西瓜を食べながら昔の話をしているうちに、みんな肩の力が抜けて、笑い声が絶えず響いていた。

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